昭和24年、日本の公的社会保障制度の中で最初に作られた生活保護制度には、現在、日本の社会と社会保障制度の抱えるあらゆる問題点が押し付けられている。逆に言えば、生活保護とその周辺を見つめれば、あなた自身の、日本全体の問題が見えてくるということだ。

今回は連載を締めくくるに当たり、生活保護をめぐる問題の本質に迫り、解決の方向性に関する提案を行う。

生活保護削減は、
「和服の袖を切り詰める」のと同じ?

 やや年配の読者は、昭和30年代~50年代に活躍した、有吉佐和子という作家をご存知だろう。彼女の代表作の1つ「紀ノ川」に、第二次世界大戦中の大日本婦人会の活動に関する記述がある。

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本当に必要な生活保護費は、年間45兆円!?<br />あまりにも「リアル」から遠ざけられている私たち作家・有吉佐和子(1931-1984)の代表作の1つ、「紀ノ川」(新潮文庫)。明治から昭和にかけて、和歌山の素封家一家の女三代の生き方を描いた小説。1959年初版刊行。1966年には映画化もされた(松竹・岩下志麻主演)。

(主人公・花が、和装で孫娘と銀座を歩いていると)「大日本婦人会」という襷を肩にかけた女に呼びとめられた。(中略)その中年婦人は、乾いた声で、
 「これをよくごらん下さい」
  無表情な顔をして、花に一枚のビラを渡した。
  葉書大の紙に、大きな太い字で、こう印刷してあった。

 決戦です!
  すぐ、お袖を切って下さい!
           大日本婦人会東京支部
(中略)
袖を切った余りの布を何に使えと云うつもりか。(中略)花はついて行けない。

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 和服の袖を切って短くすれば、若干の布の節約はできるかもしれない。活動性も、ほんの少しは改善されるかもしれない。けれども、和服地の切れ端の用途は多くない。和服の活動性の悪さが、大幅に改善されるわけではない。ただ、和服が和服の姿をなくしてしまうだけだ。

 戦時中には、このような無意味な努力が数多く積み重ねられた。それが原因であったのか結果であったのかはともかく、日本は敗戦に至った。

 生活保護費を削減するための試みのすべては、もしかすると、和服の袖を切りつめるのと同じような努力なのかもしれない。