橘玲の日々刻々 2020年10月19日

社会的に最悪系な「ダークトライアド(闇の三角形)」の
トランプ大統領が今も熱烈な支持を集める理由とは?
【橘玲の日々刻々】

 「史上もっとも見苦しい」と酷評された米大統領選の最初のテレビ討論が終わったと思ったら、トランプ夫妻が新型コロナに感染したというニュースが飛び込んできました(その後、回復しました)。アメリカ社会の混沌は深まるばかりですが、ここでは現実からすこし距離をとって、この事態をパーソナリティ(人格/性格)から考えてみましょう。

 マキャベリズム、サイコパシー、ナルシシズムは社会的に好ましくない代表的な3つの性格で、これがすべて揃うことを「ダークトライアド(闇の三角形)」といいます。このタイプは他者への共感がなく、すべてが自分本位で、ささいな利益のために他人を操ろうとします。愛情や友情などとうてい期待できず、かかわった相手を片っ端から破滅させる、まさにモンスター的人格です。

 このダークトライアドにあてはまる人物像として、トランプ米大統領ほどぴったりの例はないでしょう。トランプはことあるごとに、世界は強者(捕食者)と弱者(犠牲者)に二分されており、優れた者がすべてを手に入れ、敗者はなにもかも失うのが当然だと述べているのですから。

 トランプ=ダークトライアド説はたしかに説得力がありますが、それが究極の「反社会的」人格だとすると、現実に起きていることがうまく説明できなくなります。ヒトは徹底的に社会的な動物ですから、「反社会的」なメンバーは真っ先に共同体から排除されるはずです。それにもかかわらずトランプは「世界最強国家」の権力の頂点に居座り、アメリカ人のおよそ半分がいまも熱烈に支持しているのです。

 この矛盾は、次のように考えれば理解可能です。

 感謝や思いやりの気持ちにあふれ、共同体のために生命を捧げることを厭わない「向社会的」な人物は、誰からも好かれ、高く評価されるにちがいありません。しかしこの「高徳なひと」が生存と生殖に有利かというと、そんなことはないでしょう。みんなのために真っ先に犠牲になれば子孫を残すことはできないし、平時であっても「いいひと」は一方的に利用されるだけかもしれません。とはいえ、向社会的なひとは共同体から排除される恐れがなく、そこそこの暮らしができるでしょうから、これは「ローリスク・ローリターン戦略」です。

 それに対していっさい社会性がない人物は、一歩まちがえるとみんなの怒りを買って殺されてしまいますが、うまくすれば「いいひと」たちを出し抜いて大きな成功を収められるかもしれません。こちらは「ハイリスク・ハイリターン戦略」です。

 だとすれば、ダークトライアドがたんに忌み嫌われるだけでなく、多くの追従者が生まれる理由がわかります。なぜなら、一発当てれば大きな権力を握る可能性があるのですから。社会的な動物である人間は、「反社会的」な人物を恐れながらも、称賛し憧れる「本能」をもっているのかもしれません。

 向社会性というのは、ある意味、共同体の圧力から身を守る鎧のようなものです。ところがダークトライアドは防御をすべて放棄しているため、批判や中傷のような共同体からの攻撃にきわめて脆弱です。盾をもたない以上、すべての「敵」に全力で反撃し、殲滅しなければ生き延びることができません。

 このように考えると、トランプの特異な性格をかなりうまく説明できるのではないでしょうか。

 

『週刊プレイボーイ』2020年10月12日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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