スガノミクス脅かす最大の難敵「賃金停滞」の背後にある日本企業経営の病巣「日本は労働生産性が低いから賃金アップが難しい」説は本当なのか? Photo:AP/AFLO

 国会での菅義偉首相の所信表明演説が終わり、菅政権の方向性が明確になった。ひと言で要約すれば、新型コロナウイルス感染への対策を講じつつ、マクロ経済・金融面ではアベノミクスのリフレ政策を継承する。一方で経済成長のための規制改革の面では、安倍晋三政権下では具体的な成果は乏しかったが、菅政権はいくつかの具体的な目標を掲げ、デジタル庁の創設をてこに行政手続きのDX(Digital Transformation)による効率化や、温暖化ガス排出削減のための産業技術構造の転換を図るということだろう。

 こうした菅政権の方向性自体、私はおおむね妥当だと思う。しかし、過去20年間余り日本経済の宿痾(しゅくあ)となり、安倍政権下での企業利益や雇用の増加でも克服できなかった問題に十分な関心が払われてはいないようにも思える。それは企業経営者から労働組合にまで染み付いた賃金コストの抑制姿勢だ。

労働生産性伸び率と賃金抑制のアンバランス

 この問題については、過去5年間数度にわたって論考を書いてきた。例えば直近のものでは、「このままではデフレ・円高・株安に逆戻り、残された最後の回避策とは」(2019年6月18日配信)をご参照いただきたい。

 この論考では、日本経済が2013年来の景気回復継続にもかかわらず、その内実が外需依存であり、消費を中心とする内需主導型に転換し切れずにいること、その結果、消費者物価指数で前年比2%程度の金融政策の目標も未達のままであり、長短金利はゼロ近傍に張り付いたまま、金融政策の柔軟性、機動性が失われていることを指摘した。

 その上で「このままなら次の景気後退期にはデフレ、円高、株安に戻ってしまうだろう」と指摘したわけだが、そうした事態が新型コロナショックを契機に到来した。ただ、株価については、日米欧諸国の財政、金融政策を総動員した異例な対応で急落局面は短期で終了したが、景気回復の見通しはまだ明るくない。

 日本では、その諸要因は十分解明されてはいないが、人口比で見た新型コロナの感染者数、死亡者数ともに、欧米諸国に比べると2桁も低い幸運な状況にある。にもかかわらず、今年4~6月の実質国内総生産(GDP)の落ち込みは欧米諸国に匹敵するほど悪く、しかも7~9月以降の回復は相対的に弱いと見込まれている。

 ところが、賃金抑制の問題を強調すると、経営層からもまた一部のエコノミストからも、「日本は労働生産性が低いので、その伸び率をもっと向上させないと賃金アップは無理ではないか」という声が上がるようだ。