中国で「羊飼いのラブソング」が大ヒット、日本人が知らないブームの裏側Photo:Francis Dean/gettyimages

チベットで出会った少女を思い出させたラブソング

 音痴なので、普段、私が執筆しているコラムでは、滅多に音楽や歌などの情報を取り上げない。これらの分野での発言もなるべく避けるようにしている。しかし、今回は例外だ。今年、中国の国民歌謡になったラブソングについて書きたい。

 11年前の2009年、私はチベット族も多く住む青海省を数日間旅行していた。ある午後、青海省平安県の山間を縫うように流れる小川のほとりで、休憩のために車を停めた。車を降りた私は少し離れたところに質素なテントといくつかのミツバチの巣箱が並んでいることに気づいた。テントの横には、太陽電池のパネルと衛星放送受信用のパラボラアンテナが無造作に置いてあった。

 すると、犬の吠え声で少女がテントから頭を出した。人なつっこい笑顔の少女に「太陽電池で衛星テレビを受信できますか」と聞くと、「はい」とはにかんで答えた。

 「ハチミツはよく採れていますか」と尋ねると、少女は、「採れました。でもこの辺は菜の花がもう終わったので、明日には他のところに移動します」と教えてくれた。テントの中には小さな簡易テーブルが置かれている。その上には読んでいたであろう教科書らしき本が開いたままになっている。花を追いながらの養蜂生活をしている親子だったようだ。

 『可可托海的牧羊人(コクトカイの羊飼い)』という歌をインターネットで聴いた時、私はこの時のことを思い出した。この歌は、草原を故郷とする羊飼いと、ミツバチの巣箱をラクダに背負わせて花を追う養蜂生活を送っている女性とのラブストーリーを歌っていたからだ。