パンデミックが世界を覆い尽くす中で、若者たちは前例のないアフターコロナの時代を生きていくことになる。どのような意識を持って学び、仕事に取り組んでいけばよいのか。時代の最前線で活躍する著名人たちに、 「未来を生き抜く」知見を披露してもらった。それは若者と大人たちに送るエールでもある。トップバッターは、現代の知の巨人、立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏だ。(ダイヤモンド・セレクト「息子・娘を入れたい会社2021」編集部)

*本稿は、現在発売中の紙媒体(雑誌)「息子・娘を入れたい会社2021」の「Special Interview あの人が語る新しい時代の生き方・働き方」を転載したものです。

出口治明氏「日本を低学歴社会にした責任は100%企業にある」立命館アジア太平洋大学(APU) 学長
出口治明氏

 今回の新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックについて、出口治明氏は「自然現象」だと語る。

「パンデミックは100年に1回くらいの確率で起こる自然現象です。未知のウイルスとホモ・サピエンスが出合えば、必ずパンデミックが起こります。薬やワクチンが開発されるまでのウイズコロナの時代は、基本はステイホームしかなく、下火になればニューノーマルで町に出ていく。14世紀に流行したペストも同じで、その当時のステイホームの象徴がボッカッチョの『デカメロン』でした」

『デカメロン』は、ペストが猛威をふるったフィレンツェで、郊外の別荘にステイホームした10人の男女が1日1話ずつ語ってゆく物語で、ペスト禍にあってもユーモアにあふれており、そのマインドがルネサンスの気運を生み出した。

 今回のパンデミックで、世界はどのように変化するのだろうか。

「薬やワクチンが開発された後のアフターコロナの時代になっても、世界は元に戻らないと思います。テレワークやズーム会議の便利さを皆が知ってしまった以上、もはやそれを手放せない。結果的に新型コロナが市民のITリテラシーを向上させましたが、それでも世界の中では日本のデジタル化は大きく遅れている。コロナでITリテラシーやDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速されたと単純に喜ぶだけではダメで、世界との遅れを認識しないといけないと思うのです」

 新型コロナの影響でグローバリゼーションの終焉を唱える人々もいるが、「グローバリゼーションが止まることはない」と、出口氏はその意見に異を唱える。資源があるアメリカのような国は自国ファーストでもやっていけるが、資源を持たない日本のような国はグローバリゼーションを加速させ世界と仲良くしていかなければ、現在の豊かな生活が維持できないからだ。

 さらに新型コロナで人類が学んだのは、世界が協調する大切さだと出口氏は語る。

「新型コロナによる死者は世界で約100万人ですが、スペイン風邪では人口が20億人の時代に4、5000万人の死者が出たといいます。死者がこれほど抑えられているのは、各国が情報を共有したからです。株価が下落しないのも、世界の中央銀行が連携して金融マーケットに資金を供給しているから。協調こそコロナに対する人間のパワーなのです。ですから、今回の新型コロナを経験した若い人たちには、やはりグローバルに活躍できる人間になってほしいと思うのです」
※2020年10月現在