紙パックを使用しないため吸引力の落ちないサイクロン掃除機や、羽根のない扇風機など独自の製品で存在感を発揮、過去最高の利益を更新し続ける英国の家電メーカー、ダイソン。その創業者で、チーフエンジニアを務めるジェームズ・ダイソン氏を直撃した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 深澤 献)

製品開発の原動力は「怒り」<br />独自技術こそが競争を促すジェームズ・ダイソン
Sir James Dyson
ダイソン リミテッド チーフエンジニア/創業者 1947年英国生まれ。美術専門学校を経て英王立芸術大学院卒業。70年代に紙パック不要のサイクロン掃除機を発明。84年日本で初のサイクロン搭載掃除機「Gフォース」を発売。93年英国でダイソン社設立。2009年エアマルチプライアーを」発売
Photo by Kazutoshi Sumitomo

──家電製品は成熟化が進んでおり、新たな付加価値をどこに見出すか、各社が苦戦している。消費者が求めているものを、ダイソンではどのようにして見極めているのか。

 消費者が何を望んでいるかなど、わかるものではない。調べてわかるのなら、こんな楽なことはない。消費者が将来的に、まだ見ぬ何に興奮するか、それを消費者自身に質問しても意味がない。消費者に「あなたが必要とする商品を発明してみてください」というのと同じだ。もちろんうまくいかないときもあるが。

──では、何が商品開発の発想の原点になるのか。

 大事なのはわれわれ自身が、普段の生活の中で「怒りを持つこと」。様々なうまくいかないことがらに対して、怒りを持つ。そして、それを解決するのが製品開発の原動力だ。

 われわれが開発したデジタルモーターもフラストレーションによって生まれたものだ。従来の家庭用電気モーターは大きい上に、回転する整流子にカーボンブラシを接触させるという構造上、熱とカーボンダストという有害な微粒子が出る。そこでわれわれは、マイクロプロセッサーによって電磁界の極を切り替え、カーボンブラシを必要としないデジタルモーターを開発した。

 従来よりモーターの回転数は3.5倍増え、効率は87%向上した。カーボンダストも出ないクリーンなモーターだ。開発には100人のエンジニアが関わり、10年間で125億円ものカネもかかった。さらに、21億円かけた全自動の生産ラインで作っている。

 この効率性により、電力使用量の少ない、小型軽量の製品が作れるようになった。