情報を伝える「順番」がネット炎上を招く深い理由伝え方の「順番」はなぜ重要なのか Photo:PIXTA

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。

「伝え方」に問題があった
1980年代の「ニューコーク」騒動

 書籍やネット記事でしばしば「マーケティングの大失敗」の例として引き合いに出されるのが、コカ・コーラ社の「ニューコーク騒動」だ。

 1980年代に、ライバルのペプシの猛追を受けたコカ・コーラ社が、伝統の味を変えた「ニューコーク(New Coke)」を発売したところ、全米から「コークの味を変えるな」との抗議や苦情が殺到し、一部の地域では不買運動まで起きた。激しい抗議に困惑したコカ・コーラ社は結局、数カ月後に旧来のコーラを「コカ・コーラ クラシックス」として復活させた、という顛末である。

 このケースで、失敗の原因としてよく指摘されるのは、ニューコークの発表前に行った20万人の試飲テストで、被験者に「従来のコーラが(ニューコークに変わるため)飲めなくなる」と伝えなかった点だ。試飲テストではニューコークの味の評価は高かったのだが、もし「これまでのコーラが飲めなくなる」ことが伝わっていれば「おいしいが、変更するほど味が魅力的ではない」といった評価も多かったかもしれない。それならば、ニューコーク発売と同時に「従来の味のコーラも残す」という判断もできただろう。

 さらに、ニューコークの発表時に、味の変更の理由を「消費者の好みに合わせた」などと、あいまいにしてしまったことも、騒動の原因として指摘されることが多い。消費者にしてみれば、よく理由もわからないまま、自分の好きな味が奪われることに反感を抱くのは当然ともいえる。

 ニューコークの失敗は、伝え方のミスが大騒動に発展した典型例といえる。現代で言う「炎上事件」なわけだが、近年のネットでの炎上を見ていると、伝える「順番」を間違うなどのミスが原因であることが目立つ。納得のいく理由がちゃんとあるのに、先にそれを言わないばかりに、受け手の勘違いで炎上してしまう。情報の拡散が速い現代のネット社会では、インパクトのある発言のみがあっという間に広がり、取り返しのつかないことになる。