橘玲の日々刻々 2021年1月8日

[2021年の予想]
アメリカは「左派ポピュリズム」、ヨーロッパは「瓦礫化」、
日本は「老老格差」が今後を占うキーワードになる
【橘玲の日々刻々】

PHOTO: Lukas Gojda / PIXTA(ピクスタ)

 「今年はどんな年になるのだろうか?」という予想を毎年書いている。昨年は1月10日にアップしたが、新型コロナウイルスについてはなんの言及もできず、自分で書いたとおり「ほとんどの予想は当たらない」の典型になった。

【参考記事】
●[2020年の予想]国家主体の旧来の「世界経済」とは異なる巨大なグローバル市場により、世界中で億万長者が増大している。2020年も世界経済の拡大は続く

 とはいえ、奇妙なことに記事の結論が間違っているわけではない。コロナ禍でも株価は上がり、すでに昨年8月末時点で世界の株式市場の時価総額は89兆ドル(9400兆円)と過去最高を更新している。ジェフ・ベゾス(アマゾン)やイーロン・マスク(テスラ)を筆頭に超富裕層の富は拡大し、億万長者の数も増えているにちがいない。なぜこんなことが起きたのか、その謎を解明するのがこれからの課題になるだろう。

 もうひとつ言い訳させてもらえるのなら、記事の最後でブラックスワン(世界を一変させるような大変化)についても言及している。わたしたちは人類史上、とてつもなくゆたかで安全な世界に暮らしているが、それでもいずれどこかでテールリスク(統計的には予測不可能なロングテールで起きる“とんでもないこと”)が顕在化することを覚悟しなくてはならないようだ。

 新型コロナについては、5月に2本の記事をアップした。


[参考記事]
●アフター・コロナよりアンダー・コロナ(コロナ下での社会)が大事。無駄な規制がなくなり、オンラインを常態とした新しい世界を体験することになるだろう

●アンダー・コロナでは「リベラルな社会」を実現することで「超監視社会」が実現可能になる

 半年以上前に書いたものだが、そこで述べた主張はまったく変わっていない。現在、日本は感染者の増加と緊急事態宣言で揺れているが、感染抑制と経済活動をトレードオフ(ジレンマ)にしてしまっては、(原理的に解決不可能なのだから)いたずらに罵詈雑言の応酬になるだけだ。アジアやオセアニアの一部の国で成功しているように、適切な社会統制によって感染を抑え込むことができれば、経済活動との両立が可能になるだろうが、なぜか日本ではこうした議論はほとんどない。

 日本は民主国家なのだから、ふがいない政治も含めて、いま起きている事態はすべて戦後の日本人が自ら望んでいたことのはずだ。その結果が同調圧力と自粛警察なら、ずっとそれでやっていくしかないのではないだろうか。

新型コロナによってリベラル化はさらに加速する

 私は一貫して、世界は「知識社会化、グローバル化、リベラル化」の大きな潮流にあると述べてきた。感染力は強いが弱毒性のウイルスの流行はその流れを変えるのではなく、「加速させる」ことになりそうだ。

 知識社会化は「デジタル化」と置き換えれば説明の必要はないだろう。1年前に「多くのサラリーマンが週に4日は自宅でリモートワークするようになる」とか、「通勤の必要がなくなったので東京から郊外へと人口が流出しはじめる」といわれたら、誰もが「そんなバカな」と一笑にふしただろう。

 こうした流れは不可逆的なので、「新卒一括採用、年功序列、終身雇用」という、世界のなかできわめて特異な働き方にしがみついてきた日本の社会がこれから大きく変わることは避けられないだろう。私はこのことをずっと指摘してきたが、思っていたよりも5年から10年早く時代は進むかもしれない。

 日本人の働き方が向かう先が「グローバルスタンダード」だ。日本では多くの知識人がこれを「欧米(あるいはネオリベやグローバル資本主義)の陰謀」と勘違いしているが、人種や国籍、性別や性的志向にかかわらずすべての従業員を「平等」に扱おうと試行錯誤した結果、選ばれた「リベラル」な働き方のことだ。

 日本人がこのことを理解できなかったのは、正規/非正規という言葉に象徴されるように、日本社会が「身分」によって個人を格付けし、「共同体(イエ)」への所属をアイデンティティとする前近代的な「身分制社会」だからだ。「真性保守」を掲げた安倍政権によって、「リベラル」を標榜する労働組合(正社員クラブ)の既得権が破壊され、同一労働同一賃金が推し進められたのはきわめて皮肉な現象だった。

 グローバル化は「ヒト、モノ、カネが国境を越えて移動すること」だが、私はそれによって「リベラル化」が加速すると考えている。多様(グローバル)なひとたちを同一の基準で扱おうとすれば、その方法は「リベラリズム」以外にあり得ない。

 だとしたら、リベラル化の本質はなんだろうか。それは政治イデオロギー(リベラル)ではなく、「とてつもなくゆたかで平和な社会」を背景に、1960年代以降、欧米から世界じゅうに急速に広まったきわめて特異な価値観だ。それをひと言でいうなら、「私は私の人生を自由に選択できるし、そうすべきだ」になる。もっとかんたんにいえば、「自分らしく生きることは素晴らしい」だ。

 「そんなの当たり前だ」と思うかもしれないが、数百万年の人類史には「自由な人生」などという選択肢はそもそもなかった。日本でも江戸時代はもちろん戦前ですら、生まれた家柄によって職業が決まり、親や親族が決めた相手と結婚するのが当たり前だった。一人ひとりがあまりに脆弱なので、共同体に依存して生き延びるしかなかったのだ。

 ところが半世紀ほど前から、テクノロジーがもたらすゆたかさを背景に、「自分らしく生きる」ことが可能になった。この空前絶後の価値観の転換から生まれたのが60年代のヒッピームーブメント(フラワーチルドレン)で、スティーブ・ジョブズがいまも偶像視されているように、その影響はわたしたちの社会に深く刻印されている。レーガン大統領が登場した70年代からの「文化戦争」にリベラルは敗れたといわれたが、これは一種の錯覚で、実際には一貫して保守派の退潮が続いている。スティーブン・ピンカーが指摘するように、「現在の保守派はかつてのリベラル派よりもあらゆる面でリベラル」なのだ。

 リベラル化というのは「私らしく生きる」という価値観=イデオロギーだから、必然的に共同体を解体させていく。「私」を絶対化(私の人生は私が決める)しようとするならば、共同体のしがらみは個人への拘束以外のなにものでもない。

 これは日本だけでなく世界的な現象だが、新型コロナのリモートワークで労働者は会社に所属する必要がなくなり、共同体の解体はますます進むことになった。やがてわたしたちは、プライベートでも仕事でも、イベントごとに集まり、プロジェクトが終われば解散するようになるのではないだろうか。すなわち、新型コロナによってリベラル化はさらに加速するのだ。


作家・橘玲の切れ味鋭い見解が毎週届く!
有料メルマガの
無料お試し購読受付中!
お試しはこちら

幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,650円(税込) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額880円(税込)
いますぐ試す(20日間無料)
 

 

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。