文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。なぜ文春にジブリ文庫があるのか。ジブリと文春のつながり、幻のジブリキャラクターについて語ります。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)

鈴木敏夫さんとの縁で始まった
「ジブリ文庫」の舞台裏

鈴木敏夫氏鈴木敏夫氏と文春の縁は、世に出ることのなかった「幻のジブリキャラクター」を生んだ Photo:Michael Tran/gettyimages

 女子大で授業をするようになって、スタジオジブリの偉大さに改めて感じ入っています。

 元『週刊文春』編集長とか、元月刊『文芸春秋』編集長とか、芥川賞の司会をしたとか、そんな経歴には訝しげな眼差ししか浴びせない学生たちに、「先生の名前は、スタジオジブリの『風立ちぬ』のエンドロールに出ています」といった途端、教室中からキャーという嬌声が沸き上がるのです。

 授業が終わると(ジブリの話は、それだけなのに)、ジブリの質問に学生たちが群がります。考えてみると、ジブリの鈴木敏夫さんには昔からお世話になりっぱなしです。知人の紹介で鈴木さんと少人数で食事をしたあと、ふと思いついてお手紙を書いたことがあります。

「スタジオジブリのジブリ出版は、どんな単行本も文庫にしていません。文春文庫は万年3位。ジブリ本をどんどん文庫にして、1位の新潮文庫を抜き去りたい」

 まあ、そんな趣旨の厚かましいお願いです。

 すると、あっという間にジブリの単行本が大量に編集部に送られてきました。私の場合、たいていが思いつきです。私は当時、社では雑誌担当で文庫の担当ではありませんでした。

 ただ、雑誌中心の文春という会社を、書籍も強い文春にしたい。それには「文庫の強化が何よりだ」と主張していた当時の平尾隆弘社長の考えを、実行するいいチャンスだと思ったのです。私の経験則では、文春の本が売れるのは、地方のショッピングモールにある本屋さん。そこには必ず映画館が入っています。