脱炭素#7Photo:Bloomberg/gettyimages

EV(電気自動車)シフトに出遅れる日本の自動車産業の中で、EV向け「トラクションモーターシステム」で勝負を懸ける日本電産の株価はついに8兆円の大台を超えた。世界的な脱炭素シフトにより、モビリティ業界の「コモディティ化」と「ソフトウエア主軸のゲームチェンジ」が日本企業の想定した以上に急加速している。特集『脱炭素 3000兆円の衝撃』(全12回)の#7では、日系自動車メーカーに迫り来る二つの危機の全貌を解き明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

コモディティ化を恐れず積極投資
日本電産、格安EVメーカー攻略の賭け

 日系自動車メーカーの経営陣が無視できない中国の電気自動車(EV)メーカーがある。

 上汽通用五菱汽車(ウーリン)――。中国の上海汽車、米ゼネラルモーターズ(GM)、広西汽車集団(旧社名・柳州五菱汽車)の3社が出資する自動車メーカーである。

 ウーリンの小型EVが中国市場でバカ売れしている。上海市や北京市などの都市部で販売好調というわけではないが、農村部で飛ぶように売れているのだという。ガソリンスタンドが不足しがちな地方で、EVの利便性が見直されているのだ。従来の自動車ユーザーとは所得層や居住地が異なる新しい購買層をガッチリ味方に付けている。

 2020年12月の中国における新エネルギー車乗用車(NEV)の卸売台数は約21万台。そのうち、ウーリンの卸売台数は4万1089台に上る。知名度の高いBYD(2万8075台)やテスラ(2万3084台)を寄せ付けず、EV首位メーカーへとのし上がったのだ。

 何といっても、“売り”は価格である。昨年7月に発売された小型EV『宏光 MINI EV』の最低価格帯は、2万8800元(約46万円)と破格の安さだ。その割に馬力があるので、若者にウケている。今年、日産自動車と三菱自動車が“日本版小型EV”の軽自動車EVをリリースする予定だが、その価格が200万円を切ることはあり得ない。46万円EVの激安ぶりが分かるだろう。

 日系自動車メーカー幹部が警戒しているのが、ウーリンの成長スピードである。発売からわずか半年で、生産能力は月産約4万台まで上がっており、すでに年産50万台を達成しているとみられる。日産が世界初の量産EVを発売してから10年をかけてようやく累計販売台数50万台を突破できたことを考えれば、その成長速度は異常である。

中国「バカ売れ46万円EV」のモーターを日本電産が受注!それでも日系自動車に迫る危機

 ウーリンの野望は膨らむばかりだ。サプライヤーへの発注台数の見積もりでは、単一車種で年産200万台を視野に入れている模様だ。生産拠点の中核は、ベトナムと国境を接している広西チワン族自治区の柳州市にあり労務費が低い。同じ車種を大量生産することで、大幅なコストダウンを狙っているのだ。ウーリンが起こしたEVの価格破壊――、すなわち「EVのコモディティ化」に追随できる自動車メーカーはまだ現れていない。

 世界的な脱炭素、脱ガソリン車の動きが加速し、米欧中のEVシフトが鮮明になりつつある。ウーリンの急成長は、EVシフトがもたらす「車のコモディティ化」の象徴的事例だ。

 そして――、そんなウーリンにモーレツ営業を仕掛けることで、モーターの受注を獲得した企業がある。自動車業界の破壊者、日本電産である。

 しかし、EVのコモディティ化は、日本電産には大きなチャンスになり得るかもしれないが、大方の日本の自動車メーカーにとっては、地獄への入口となってしまうかもしれない。