脱炭素#9写真:朝日新聞社/時事通信フォト

鉄鋼業界が最大のピンチを迎えている。需要減や原料高を背景に高炉再編を進めてきたところだったが、今回の脱炭素シフトで、その再編計画は練り直しが必要になりそうだ。今のカーボンニュートラルの潮流は、鉄鋼産業に巨額の投資を強いるばかりか、「日本」という国で製造業を続けるリスクを浮き彫りにしている。特集『脱炭素 3000兆円の衝撃』(全12回)の#9では、日本製鉄をはじめとする鉄鋼メーカーの「高炉再編」の最終形を大胆予想する。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

中国に後れを取ろうものなら
グローバルでは生き残れない!

「カーボンニュートラルへの対応というのは、できるできないの話ではなく、『やらなければならないこと』だ。万が一にも世界に、特に中国に対して後れを取るようなことがあれば、日本の鉄鋼産業はグローバルで生き残ることはできない」(鈴木英夫・日本製鉄常務執行役員)

 今、世界に押し寄せるカーボンニュートラル(炭素中立。二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること)の潮流は、日本の鉄鋼産業を揺るがす一大事だ。

 振り返れば、日本の鉄鋼各社は2018年ごろから原料高、需要減、中国発の市況暴落という「三重苦」に見舞われつつあり、もともと苦境に立たされていた(本特集#5(『日本製鉄とJFEの“神戸製鋼救済”計画が吹き飛ぶ!「炭素ゼロ圧力」のすさまじさ』)参照)。

 実際に経営層の危機感は強く、日本製鉄、JFEホールディングス(HD)の国内トップ2社が昨春、高炉の恒久休止による生産能力の削減を決定したくらいだ。しかも両社は発表以降も「場合によってはさらなる能力削減が必要になる」とより一層の抜本改革に踏み込む可能性も否定せず、水面下では最適な生産体制に向けて第2弾、第3弾の構造対策案が練り続けられていた。

 しかし、秋に差し掛かった頃から世界が一気にカーボンニュートラルに向けて動きだしたことで、事態の深刻度は急激に増した。もはや、「鉄鋼産業」の存在意義を根本から問い直さねばならないほどの緊急事態に陥ったといっていい。

 脱炭素は巨額の投資を強いるばかりか、日本で製鉄プロセスを持ち続けることのリスクをも浮き彫りにしている。製造拠点の“国内撤退”をも辞さぬ、極めてシビアなレベルの高炉再編が現実味を帯びつつあるのだ。

 将来的に、高炉再編の「最終形」はどのような姿になるのか。大胆に予想した。