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10月11日 18時0分
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米国の「財政の崖」〜欧州の二の舞は避けられるか〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

*11月6日に開票が行われる大統領選挙では、これまでオバマ大統領の優勢が続いていたが、ロムニー候補の支持率が足元で回復していることが報じられている。もちろん、大統領選を決する「激戦州」でオバマ氏が依然優勢を保っており、ロムニー氏が勝利する可能性が高いわけではない。ただ、米株式市場ではオバマ銘柄とされる医薬品関連が調整するなど、大統領選挙を巡る思惑が市場でも浮上している。

*大統領選挙を含めた米国の政治動向のうち、今後の経済・市場動向に大きな影響を及ぼすのは、いわゆる「財政の崖」の問題である。現在、東京で開催されているIMF総会でも「大きなリスク」として指摘されている。なお、IMFから長引く欧州経済の混乱について、「財政健全化は必要だが極端な緊縮財政は持続可能ではない」ことも提言されている。2013年には米国も、緊縮財政の行き過ぎをもたらす政治動向が、無視できないリスクになりうる。

*「財政の崖」は、これまでの所得税などの税率引き下げを定めた法律が2012年末で期限を迎え、2013年初から増税と歳出削減が始まることである。法律の手当てが行われないと、家計や企業への減税が終了し、政府の歳出削減も自動的に進む。これらを合わせると、緊縮財政は5000億ドルと、GDPの3%程度に相当する(表参照)。仮に、この緊縮財政措置がすべて起きると、2009年から+2%前後の安定成長を維持し世界経済を牽引してきた米経済は、2013年からマイナス成長つまり景気後退に陥る。


*さすがに、大規模な緊縮財政が起きるシナリオは現実的ではない。2011年末にも、減税措置が切れる前に法案延長が決まった経緯がある。2012年も同様の動きが予想されるが、議会の勢力が変わるなどの過程で、昨年までの対応が実現しないリスクがある。新たな大統領の経済政策や議会の勢力図が判明しないと、経済政策の行方を見通すことができないのが実状である。こうした米国を巡る不透明要因が、市場の不安心理を強める一因になっている(このため、ポジショントークとしても都合よく使われている)。

*先の一覧表にあげたように「財政の崖」のメニューは、これまでの減税政策が期限切れになる「家計への増税」が多くを占めている。一方、オバマ・ロムニーどちらの政権で、「財政の崖」のリスクが高くなるのかは判然としない。両候補とも財政再建が必要との立場を表明しつつ、オバマ大統領は「富裕層への増税」、ロムニーは「大規模な歳出削減」を掲げている。これは長期的にみれば大きな違いだが、短期的にはいずれも緊縮財政策である。ただ、これが2013年からどの程度の規模で行われるか、はっきりしない。

*現段階では、(1)家計の所得増税(給与税廃止or富裕層への増税)、(2)自動的な歳出削減、などでGDP対比1%p前後の緊縮財政圧力が生じると予想される。「財政の崖」という程大袈裟ではないが、どちらが大統領になっても、抑制的な財政政策運営は米経済の経済成長の足かせになると予想される。

*ただ、財政政策が米経済の成長を抑制するといっても、必ずしも大きなリスクと言い切れない面がある。家計への増税が大きくなり過ぎなければ問題は限定的である。というのも、既に2011年から米国では政府の支出・投資減少が続いている。2011年に、米国の政府支出は-0.6%もGDP成長率を押し下げ(2011年は+1.8%成長)、同様の歳出削減は2012年も続いている。2011年からは財政政策は成長率を支えておらず、金融政策頼みで米経済は成長してきた。

*来年も、景気対策としては金融政策頼みとなりそうだが、こうした意味ではロムニー候補率いる共和党が、FRBの金融緩和策に対して批判的な意見を表明していることがリスクかもしれない。もちろん選挙を巡る駆け引きの面があるが、ロムニー政権が誕生した場合、頼みの綱であったFRBの金融緩和策に対する疑念が市場で高まる展開も想定できる。こうした思惑が、市場の悪材料になる可能性がある。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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