『ストレスフリー超大全』の著者で精神科医の樺沢紫苑さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について、「このリアリティ、具体性は当事者の経験あってのもの。精神科医や研究者には、絶対に書けません」と絶賛しています。
今回はYouTubeで実現した2人の対談「発達障害サバイバルライブ!(動画)」の内容を抜粋・編集してお届けします。(撮影/疋田千里)

精神科医が語る「自分はもしかして発達障害?」と悩む人に欠けている一つの行動

(視聴者からの質問)
自分が発達障害であることを受け入れられません。(20歳男性)

「発達障害だ!」ではなく「○○で困っている」を考えよう

(二人の答え)
借金玉 のっけから申し訳ないのですが、大前提として僕は発達障害を「克服」できてはいません。会社に持っていく名刺を忘れる。執筆のスケジュールが破たんする……。これらは油断すると起きてしまう、現在進行形の問題です。

 発達障害を根本的に治療することはできません。だからこそ、僕は発達障害があることによって起きる人生の様々な問題にどのように対処するかに重きを置いています。乗り越えたのではなく、一つひとつの小さな問題に向き合いながら、何とか生きてきた。それが私の現在地ですね。

樺沢紫苑(以下、樺沢) 発達障害については本格的な研究が始まってから歴史が浅く、医学的にもまだわからない部分が多いんです。医師の間でも「治る/治らない」で意見が分かれていたりもします

 でも間違いなく言えるのは、気力や精神論ではどうにもならないということ。そして、診断というのは、本来人を安心させるためにあるもので、不安にさせる存在するものではないということです。

 さらに言えば、みんな発達障害そのもので困っているわけではなく、借金玉さんのように「ものを忘れる」とか「スケジュールを守れない」とか、発達障害があることによって生じる具体的な症状で困っているわけです。だからむやみやたらに不安になったり、自分を否定したりすることは本当に無意味だと私は思います。借金玉さんは、どう思われますか?

精神科医が語る「自分はもしかして発達障害?」と悩む人に欠けている一つの行動借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』

借金玉 僕も「発達障害の自分」みたいな自己規定は、日々の問題解決に全くつながらないので、意味がないと感じます。その上で、まず大事なのは、「自分は辛いのだ」と認めてあげることではないでしょうか。辛いというのは一見後ろ向きですが、これから新しい一歩を踏み出すための、最初の前向きな行動になると思います。

樺沢 その通りですね。さらに、自分の現在の問題をしっかり把握するために、私がお勧めしたいのは日記をつけることです。

 長い文書を書くのが面倒なら「今日失敗したこと」だけでもいいでしょう。毎日のミスを記録すれば、一週間でも相当なボリュームになるはず。その中で頻出する3つくらいを選んで分析してみると、自分の失敗・ミスの特徴や傾向(いつ、どんなミスをするのか)を把握できるはずです。

借金玉 書くのはいいですね。自分を客観的に知るために、すごく役に立つと思います。自分が感覚的に感じていることって、実はあんまり正確ではなかったりしますよね。僕自身も自分の調子を把握するのに睡眠時間の記録をつけています。

「調子がいいな!!」と思っていたら、やたら睡眠時間が短くて「躁」状態だったと気づいてハッとしたり。逆にうつのどん底でのたうちまわっていても、記録上は少しずつ眠れるようになって、やがて元気になったり。記録は嘘をつかないなと感じます。

精神科医が語る「自分はもしかして発達障害?」と悩む人に欠けている一つの行動樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。最新刊は『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)。シリーズ70万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版)をはじめ、16万部『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、10万部『神・時間術』(大和書房)など、30冊以上の著書がある。
YouTube「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」