著者:荒木シゲル(あらき・しげる)
コミュニケーション・トレーナー/パントマイム・アーティスト
アクトバート合同会社代表、FACS認定コーダー、デジタルハリウッド大学大学院客員教授、CG-ARTS協会委員
高校卒業後にイギリスの美術大学に留学し、卒業後はデズモンド・ジョーンズに師事、パントマイム・アーティスト、俳優として活動。ロンドン市内の劇場で4つのソロ公演を興行、イギリス国内外の雑誌、新聞等で取り上げられた。アジア人パフォーマーの代表として故マーガレット王女に招かれ、晩餐会でパントマイムのデモンストレーションを行ったこともある。1998年に帰国後は、CGキャラクターアニメーションのアドバイザーとして映像、ゲーム制作に関わる。また、ヒューマノイドロボット研究者の集まる「デジタルヒューマンワークショップ2005」、国内外のCGクリエイター・研究者の集まる「シーグラフアジア2009」、スイス、チューリッヒ大学でのシンポジウムなどで身体表現に関する講演を行う。現在は、即興演技・パントマイムを取り入れたコミュニケーションセミナー「コムトレーニング」を、企業や学生向けに開催している。

あなたは「口下手」「アピール下手」で損をしていませんか?

みなさんは、次のような経験がありませんか?

プレゼンで必死に説明したのに、ぜんぜん伝わっていなかった。
取引先に伺ってひたすら謝ったのに、余計に怒らせてしまった。
会議中、上司の話に集中して一生懸命資料を見つめていたら、なぜか怒られた。
面接で、直立不動で受け答えをしていたら、不採用だった……。

なぜでしょうか?

もちろん話した内容が相手に響かなかった可能性はあります。

ただし、「それ以外」の要因も大いにあり得ます。

話す内容のほかに問題はなかったでしょうか。

プレゼンで聞き手のココロをつかんだり、面接や面談で相手からの信頼を得たりしたい、というとき、実は「言葉」だけでは不十分です。人の魅力や印象は、言葉以外の部分――つまり、しぐさや表情、姿勢、声質など、いわゆる「非言語コミュニケーション」からの影響を強く受けるからです。商談や交渉時などに、主導権を握りたいときも同じです。

同じ内容を話したとしても、この「非言語」の部分がおろそかだと、相手に「残念な人」と受け取られてしまいます。

逆に、非言語のしぐさでアピールできていれば、少ない言葉でも説得力が高まり、「デキるヤツだ!」と、なぜか内面までよいように解釈してもらえるのです。

「振り」をすることこそが「デきる人」への第一歩

仕事に対するモチベーションが高く、認められたいというキモチがあるのに、思いがうまく相手に伝わらず、対人関係でいつも損をしてしまう……。そんな人は、「非言語」コミュニケーションに問題がないか、一度考えてみてください。

「言葉」以外で簡単にキモチを伝えるにはコツがあります。時に「眉を動かすタイミング」であったり、「手の置き場所」だったり、ちょっとした表現の工夫によって、言葉が相手にうまく伝わり信頼関係を築きやすくなります。そのポイントを知れば、あらゆるシーンで有利に立ち回ることができるようになります。聞き手と話し手、あるいは管理職と若手など、どのような立場にあっても使えます。

一見、うわべだけのようにも感じるかもしれません。しかし「振り」をすることこそが実は、意識を変えるきっかけとなる実践的なテクニックといえます。

「学ぶ」という言葉は、昔は「まねぶ」と発音され、それは現代で言う「真似る」と同じ意味なのだそうです。ですから最初は「デキる人」の振りをしているだけでも、それは習得の一歩であり、ゆくゆくは成果や実績につながっていくはずです。「見た目から入る」というのはあまりよい響きではありませんが、みなさんがご自分の内面を変えるための導入として、是非しぐさを取り入れてみてください。「振り」はいつしか「本物」になるのです。

パントマイムで培った「言葉以外」で伝える技術

私は1990年代に、パントマイマーとしてロンドンなどで活動していました。2年間みっちりと学校で修行をして、卒業後は5年ほどかけて4つのソロ公演を興行し、演劇フェスティバルに参加したり、英国王室主催の晩餐会でパフォーマンスを披露した経験もあります。

パントマイムでキャラクターを演じるときは、まさにカラダの動きから役を作っていく手順を踏みます。通常の演劇ではまず「気持ち」からキャラクターになりきるのですが、パントマイムをはじめとする「フィジカルシアター」と呼ばれるジャンルでは、その逆のアプローチ、つまり「カラダの動きから」役作りをしていくのです。

例えば悲しいキャラクターを演じるときには、まずフーッとため息をつきながら、肩を落としてトボトボと歩きまわります。しばらくそうやって歩き回ることで、徐々にキモチまで悲しくなり、役に入り込んでいきます。また逆に、強いヒーローのようなキャラクターを演じるときには、胸を張って堂々と歩くことで、ココロに情熱と正義感を満たしていき、意識を役に近づけます。「振り」から「意識」を変えるという考えは、そういった私の経験に基づいています。

また、パントマイムには、カラダの使い方を体系化し、声に頼らず感情やキャラクターをより魅力的に見せるメソッドのようなものが存在します。帰国後はその知識や経験を生かして、CGキャラクターやヒューマノイドロボットの演出や監修に関わるようになりました。近年では、ビジネスパーソンや教育関係者向けに、印象をアップさせたり、よりうまく言いたいことを伝える指導もしています。

かれこれ25年以上にわたり、さまざまな形で身体表現に関わってきて、私は今「非言語コミュニケーション」の効果と大きな可能性を感じています。最近ではリモートワークでオンラインミーティングの機会が増えたため、非言語コミュニケーションの効果への理解が深まり、必要性がいっそう高まっている、と実感しているのです。

「しぐさ」を磨いて、「残念な人」から「デキる人」へ

本書では、奥深い「非言語コミュニケーション」の具体的な方法を、ちょっとした「しぐさ」のコツとして紹介していきます。前半は会社の内外でありそうなシチュエーションごとに「デキる人」と「残念な人」で比較して、ポイントをまとめました。

後半には、一般に「しぐさ」として認識されやすい「顔の表情」と「手の動き」にフォーカスして紹介しています。これらはもっとも端的に効果を出しやすい身体パーツです。

すぐに使えるシンプルなテクニックを、わかりやすく沢山のイラストを使って解説します。みなさんが取り入れやすそうな「場面」や「体のパーツ」のしぐさから、実践してみてください。意識して取り入れてみることで、印象は確実に、そしてすぐに変化するはずです。

本書を通じて、みなさんの仕事がよりよい成果を生んだり、よりよい人間関係がはぐくまれたりする一助になれば幸いです。


荒木シゲル 著/髙栁浩太郎 イラスト(2021年2月16日刊行、ダイヤモンド社)

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