中央値で15.5年にわたる追跡期間中に、これらの参加者のうち931人が食道腺がん、301人が食道扁平上皮がん、876人が喉頭がんと診断された。喫煙や飲酒の習慣、体重といった因子による影響を取り除いて解析した結果、研究開始時にGERDがあった人では、GERDがなかった人と比べて、これら3種類のがんのいずれかを発症するリスクが約2倍高いことが示された(ハザード比は、食道腺がん2.23、食道扁平上皮がん1.99、喉頭がん1.91)。
ただし、研究グループは、食道がんや喉頭がん発症の絶対リスクは低いことを強調し、GERD患者の圧倒的多数はこれらのがんを発症することはないとの見解を示している。Abnet氏も、「この研究結果を受けて、GERD患者が不安を覚える必要はない」と話す。しかし同氏は、「世界的に見ると、食道がんで最も多いのは扁平上皮がんである。それゆえ、GERDと扁平上皮がんとの関連について検討する研究が重要なのだ」と説明している。
では、なぜ胸焼けをもたらす疾患が、がんの発症に関係するのか。その理由についてAbnet氏は、「食道は、胃や小腸の中に存在する胃酸や消化酵素といった、組織をただれさせる作用のある物質に慣れていない」と説明する。なお、食道腺がんに関しては、こうした物質に慢性的に曝されて傷ついた食道の組織から、がんが発生する可能性が以前より指摘されている。
実際、NIHによると、GERD患者の約10~15%に、食道の上皮に異常をもたらすレベルの重度の逆流が見られるという。こうした病態はバレット食道と呼ばれる。バレット食道がある患者での食道腺がんの発症リスクは、年間約0.5%と推定されている。
Abnet氏は、「これと類似したメカニズムで食道の扁平上皮がんや喉頭がんが発生する可能性はある」と話す。ただ、GERDを治療することで、これらのがんの発症リスクを抑制できるかどうかは不明だという。また同氏は、米国における食道がんや喉頭がんの主なリスク因子は喫煙と大量飲酒であることを指摘し、「喫煙と大量飲酒を避けることが最も重要な予防策になる」としている。
米国がん協会(ACS)の疫学研究のサイエンスディレクターであるPeter Campbell氏は、「GERD患者に対するがんの標準的なスクリーニングテストはない。患者は、嚥下困難、胸痛、嗄声(声のかすれ)、長引く咳、体重減少といった、これらのがんに関連し得る兆候に気を付けておく必要がある」と話している。(HealthDay News 2021年2月22日)
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