菅義偉首相Photo:Yuichi Yamazaki/gettyimages

新型コロナウイルスの感染による緊急事態宣言は、首都圏の1都3県が3月21日まで延長された。だが菅義偉首相ら政府は「総合的な判断」「内閣総理大臣としての判断」などと常套句を繰り返すばかりで、判断の根拠がさっぱりわからない。場当たり的な「説明しない政府」では、自由民主主義の存在基盤を掘り崩してしまうだけだ。(東京工業大学准教授・社会学者 西田亮介)

解除しても「緊張感を持って」…?
基準を満たしても延長する不可解さ

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた2度目の緊急事態宣言は3月5日、首都圏の東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県の解除が見送られ、21日まで2週間延長されている。2月28日に大阪府など6府県が1週間前倒しで解除されたのとは対照的だ。

 しかし問題は、6府県で宣言解除に至った、そして首都圏において延長を選択した理屈や筋道が、さっぱりわからないことだ。菅義偉首相の2つの記者会見の言葉を見てみよう。

(緊急事態宣言の一部解除について、2月26日)
 国民の皆さんの大変な御協力によって、その効果は歴然と現れており、感染者数が減少していることも事実であります。こうした状況を地域ごとに勘案して、先ほどの対策会議において、6府県において2月28日をもって解除することを決定いたしました。
 しかしながら、引き続き緊張感を持って、感染拡大防止を徹底してほしいと思っています。
(首相官邸「緊急事態宣言の一部解除等についての会見」)(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0226kaiken.htmlより引用)

(緊急事態宣言の延長について 3月5日)
 宣言の解除については、新規感染者数、病床の利用率などを目安とし、判断を行う、こう申し上げてきました。1都3県についてはほとんどの指標が当初目指していた基準を満たしています。しかしながら、病床の使用率が高い地域があるなど、依然厳しさが見られます。また、感染者数は減少傾向にあるものの、そのスピードは鈍化しています。人出が増加している地域もあり、いわゆるリバウンドの懸念も高まっています。2週間は、感染拡大を抑え込むと同時に、状況を更に慎重に見極めるために必要な期間であります。こうした点を冷静に、そして総合的に考慮し、内閣総理大臣として延長の判断をいたしました。
(首相官邸「新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見」)(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0305kaiken.htmlより引用)

 前者が前倒し解除を宣言したときの会見冒頭で、後者が緊急事態宣言延長についての会見冒頭だ。

 どちらを読んでも、どのような観点と判断で緊急事態宣言を解除し、延長したのか全く見えてこない。宣言を解除しても「引き続き緊張感を持って、感染拡大防止を徹底」するのであれば、解除すべきでないようにも思える。

 むしろ、長期間にわたって緊急事態宣言を出し続けることが社会経済活動における緊張感をそぐので、かつて言われながら最近ではめっきり耳にしなくなった「メリハリをつけた対策」を行うということであれば、そのように説明すべきだ。だがそれでは、首都圏における宣言延長と整合性がとれないようにも思える。

 これでは、受け止めた国民によって、納得する人と納得しない人が出てくるのはある意味当然であろう。