脱炭素の最強カード#2Photo:picture alliance/gettyimages

米欧中で「電気自動車(EV)シフト」が急加速している。日本政府も2030年半ばに新車販売の「ガソリン車ゼロ」方針を掲げたものの、日本の自動車メーカーやサプライヤーの動きは鈍い。とりわけ、日本陣営のボトルネックになるのがEVの基幹デバイスとなる車載電池だ。「ルールメーキング」が得意な欧州を筆頭に、主要な国・地域は巨額の補助金支援で電池サプライチェーンの囲い込みに走っているからだ。特集『EV・電池・半導体 脱炭素の最強カード』(全13回)の#2では、半導体不足以上に深刻な「バッテリー欠乏危機」の内情に迫った。(ダイヤモンド編集部 浅島亮子、新井美江子、山本 輝)

欧州へ渡る日本の電池エンジニア
EV・電池「ルールメーキング」の脅威

「いずれ、電気自動車(EV)向けの電池を造れるようになります」

 今から約3年前のこと。ある日本の自動車メーカー幹部は、スウェーデンの電池メーカーであるノースボルトのピーター・カールソンCEO(最高経営責任者)が熱弁をふるっていた姿が忘れられない。ノースボルトは、米テスラの調達部門出身の元幹部、カールソンCEOが2016年に創業したスタートアップだ。

「当時、まだ新興企業の範疇を出ていなかったノースボルトが(高い品質が要求される)車載電池を造るなんていう話は“眉唾物”だと思っていた」(前出の自動車メーカー幹部)と言う。計画達成をいぶかしげに思うこの幹部をよそに、カールソンCEOは「車載電池を製造することは、EU(欧州連合)の総意ですから」とさらに強気な言葉を返してきた。

 その言葉通り、ノースボルトは19年に独フォルクスワーゲン(VW)や独BMWなどを引受先とする増資を行なっており、車載電池工場の建設に向けて準備を進めている。すでに3年前の時点で、EUはEV市場の爆増を睨んで、欧州域内で「車載電池の自給率」を上げる方策に手を打っていた。

 中国・韓国の車載電池メーカーの生産拠点を欧州域内に呼び込んで電池の「囲い込み」を図る一方で、電池内製化の取り組みまで並行して進めていたのだ。

 翻って、日本はどうか。

 今年に入って自動車向けの半導体不足が浮き彫りになったばかりだが、将来的に、日本が旺盛なEV需要に見合う車載電池を調達できなくなる「電池欠乏危機」が表面化しそうな雲行きだ。

 日産が世界初の量産EV「リーフ」を10年に発売したり、パナソニックが車載電池の生産量で世界一を誇ったりと、日本に分があったはずのEV・電池産業。いつの間にか、その地位は欧州に取って替わられてしまっている。

 それだけではない。脱炭素シフトを着々と進めるEUは、ガソリン車大国の日本を追いやる「トラップ」を仕掛けようとしている。EUが準備した用意周到な罠とはどんなものなのか。