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バイデン政権は1.9兆ドルの米国救済プランを成立させた。大規模な財政出動は一時的には効果を持つが長続きせず、インフレ上昇も一時的なものに終わる。富裕層への所得の偏在は変わらず、所得が増えない低中所得者層は借り入れで消費を賄うため、大幅な金利上昇には耐えられないだろう。(BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎)

大規模な財政出動で完全雇用への
復帰を目指すイエレン米財務長官

 バイデン政権の下、米議会はGDP(国内総生産)比で10%弱に相当する1兆9000億ドルの米国救済プランを成立させた。昨年末にも9000億ドルの追加財政を決めたばかりだ。

 長期停滞論を唱え、財政支出拡大を主張していたサマーズ元財務長官ですら、需給ギャップの3倍もの追加政策はインフレ加速をもたらすリスクがある、と警鐘を鳴らす。 

 しかし、イエレン財務長官は、インフレより厄介なデフレへの対応が先であり、最優先課題である経済格差の解消には、大規模財政で高圧経済を目指す必要があると反論する。果たしてうまく機能するのか。

 多くの市場関係者が予想する通り、今年7~9月にも米国経済は、パンデミック危機前の水準まで回復するだろう。コロナ対応で自動化を進めるべく、既に設備投資は大きく増え始めた。 

 一方、昨春に急上昇した失業率はまだ高い水準が続く。これは生産性上昇を意味するが、恩恵を享受するのは企業であり、株主である富裕層だ。失業率が高ければ、労働者の賃金は上がらない。

 さらに、金融政策は実効下限(編集部注:金融政策上、効果を持つ金利の下限の水準)制約に達し、事実上、有効性を失っている。FRB(米連邦準備制度理事会)議長も務めたイエレン財務長官は、金融緩和に代わって大規模財政を繰り返し、まずは完全雇用に復帰するのが最初の目標と考えているのだろう。 

 パウエルFRB議長も、インフレを作り出すことができるとすれば、それは大規模な財政出動であることを認識しているだろう。実効下限制約に到達した現在、中央銀行にできるのは、大規模財政がもたらす金利上昇圧力を吸収することくらいである。 

 今後、予想されるインフレ率上昇はベース効果(編集部注:このケースでは、前年の物価水準が低いため、前年比で見て今年の物価上昇率が高くなること)とペントアップデマンド(繰り越し需要)による一時的なものであり、インフレ予想の醸成は容易ではないと、パウエル議長は繰り返し述べている。