咋2020年10月26日、菅義偉総理大臣は所信表明演説の中で、「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」ことを宣言した。実は、その2週間前の10月13日、国内最大の発電会社であるJERA(ジェラ)が、同様の趣旨を表明している。いわく「2050年時点で国内外の当社事業から排出されるCOを実質ゼロとするゼロエミッションに挑戦します」。これらJERAと政府の発表以後、日本産業界全体が脱COへと大きく傾斜していく。

 さて、電力部門では周知の存在だが、未上場でもあり、JERAをよく知る人はあまり多くないのではなかろうか。2015年4月、東京電力と中部電力が50%ずつ出資して誕生した合弁会社がJERAである。国内総発電量のおよそ3割を担う存在であり、その発電方法は化石燃料を使用した火力発電がメインで、運営する火力発電所は国内27カ所。このように紹介すると、時代に逆行しているかに思えるが、以前より脱COの準備を着々と進め、先のCOゼロエミッションの発表に至った。

 このように、脱COに拍車がかかっていくことはもちろん歓迎すべきだが、その一方で、とかくエネルギー分野では、原発が典型だが、一つの価値基準で判断する一元論、是か否かを問う二元論が跋扈しやすい。

 しかし、世の中の出来事の大半が、一元論や二元論ではとうてい片付けられないものであり、とりわけエネルギーや地球環境にまつわる問題は、さまざまなトレードオフや見解の相違を伴う、一筋縄ではいかない多元的で複雑な問題(ウィキッド・プロブレム)である。

 にもかかわらず、化石燃料の使用をすぐさま中止し、サステナブルなエネルギーに切り替えるべきであるといった、世界の現実──地理的制約に気候条件の違い、途上国が抱える先進国との経済格差やインフラの未整備といった問題など──を脇に置いた主張が声高に唱えられている。しかもそこには、脳科学者や心理学者が言うところの「正義中毒」の傾向が見られる。すなわち、人間の脳は、正義をかざすことで快楽物質のドーパミンが分泌され、これに酔ってしまい、安易に拳を上げてしまうというのだ。

 旧体制の欠点を指摘したり批判したりすることは、人々の問題意識を刺激し、新体制へと転換を促す原動力であることは間違いないが、歴史的に見ても、過剰に偏った行動主義(アクティビズム)から建設的な解決策は生まれてこない。

 最近では、こうした唯一最善解のない地球環境問題に対処するために、事業や経営を改革していくことを「グリーン・トランスフォーメーション」(GX)という。このGXを推進していくには、エネルギー関連の知識とリテラシーが欠かせない。JERA社長の小野田聡氏へのインタビューを通じて、日本産業界のみならず日本全体のGXについて考えてみたい。

世界で戦える
エネルギー企業を目指す

編集部(以下青文字):JERAは、2015年4月、東京電力と中部電力が出資する発電会社として設立され、いまでは日本最大の発電量を誇るエネルギー会社になりました。そして、いまや世界10カ国以上で事業展開するグローバル企業でもあります。

CO₂ゼロエミッション<br />2050年へのロードマップJERA​ 代表取締役社長 小野田 聡SATOSHI ONODA 1980年、慶應義塾大学大学院工学研究科機械工学専攻修了。同年、中部電力入社。火力部、企画部、エル・エヌ・ジー中部出向などを経て、2007年、執行役員・発電本部火力部長。その後、常務執行役員、取締役専務執行役員、電気事業連合会専務理事、副社長執行役員・発電カンパニー社長、JERA非常勤取締役、代表取締役副社長執行役員・発電カンパニー社長などを歴任し、2019年4月より現職。

小野田(以下略):ご承知の通り、エネルギーを取り巻く状況は大きく変化しており、この世界にもグローバル競争があり、年々激しさを増してきています。東電にも中電にも、以前より「国際競争力のあるエネルギー事業をグローバルに展開していきたい」という思いがあり、その実現に向けて双方で協議を重ねる中で意見が一致し、JERA設立に至りました。

 その際、3つの基本理念を掲げました。すなわち、「グローバルなエネルギー企業を創出」すること、「新たなエネルギー事業モデルを構築」すること、そして「バリューチェーン全体の強化」です。

 これら3つの基本理念を実現していくには、地球環境問題は避けて通れないテーマです。事実、欧米諸国では、私たちのようなエネルギー会社をはじめ、それ以外の業界でも、先覚的な企業がいち早くゼロエミッションに取り組んでいます。その輪はどんどん広がり、いまや日本が掲げる2050年以前に達成しようという勢いです。

 当然、私たちもこの方向へと大きく舵を切り、いかに実現させるかについて、設立当初より模索・検討してきました。その過程の中で、現在使われている石炭や天然ガスとアンモニアや水素を混ぜて発電する「混焼」という技術が有望であることがわかりました。この技術であれば、これまでの火力発電設備を活用しながらCOの排出を減らすことができます。

 アンモニアはNH、すなわち窒素と水素でできていますから、燃やしてもCOは排出されません。石炭火力に20%アンモニアを混ぜて燃焼すれば、石炭は20%減ります。したがって、COも20%削減される。アンモニアの混焼率をさらに高めていけば、COはどんどん減っていきます。

 ちなみに、当社の発電出力構成は、石油が14%、石炭が15%、CO排出量が石炭の約2分の1であるLNG(液化天然ガス)が71%と、LNGの割合が多いことが特徴です。また石炭にしても、すべての発電所ではありませんが、CO排出量が相対的に少ない高効率発電技術の一つ、超々臨界圧発電方式を採用しています。

 洋上風力発電などの再生可能エネルギーへの取り組みについてはのちほどお話しいたしますが、2030年までは、このアンモニア混焼と、従来の非効率な石炭火力発電所の停廃止をゼロエミッション火力の中軸に考えており、政府が示す2030年度の長期エネルギー需給見通しに基づく国全体の火力発電によるCO排出原単位と比べて20%減を目指します。

 なお、COゼロエミッションに向けたロードマップには、アンモニアだけでなく、水素混焼を含めていますが、現時点では、コストや技術的な課題もあり、2030年の中間目標にどれくらい貢献しうるかははっきりしていません。