「大きな社会的インパクトは、どのようにして生まれるか」について実証的な研究から導き出した、それこそ大きなインパクトを与える本が発売された。『世界を変える偉大なNPOの条件』(ダイヤモンド社刊)である。タイトル通り、偉大なNPOを偉大たらしてめているものは何か?」、その行動原理を明らかにしたもので、NPOや社会起業家、企業のCSR関係者だけでなく、あらゆるビジネス・パーソン必読の書である。なぜならば、この本で書かれていることは実は、組織が大きな社会的インパクトを与える方法についてだからだ。

マーケティングも革新的アイデアも要らない! 通説を覆す「社会的インパクトを与える組織」の条件とは?『世界を変える偉大なNPOの条件』(ダイヤモンド社刊)

 同書で言う「偉大なNPO」とは、「社会に対して並外れた影響力を生み出してきた」NPOのことである。「彼らがなぜ、社会に対してこれほど大きな影響を与えることができたのか」についてこの本の筆者であるレスリー・R・クラッチフィールドとヘザー・マクラウド・グラントの2人は、数千ものNPOのCEOを調査し60回以上のインタービューを実施し、12の組織を選んだ。さらに、そこから2年間に渡り徹底的に調査した。その結果、導き出されたものが、社会に大きなインパクトを与えることができる組織が有する6つの原則なのである。これは、社会セクターにとっても有益な知見だが、ビジネス・セクターにとっても同様である。

 自分たちの事業をいかに社会的インパクトの大きなものにするかということは、ソーシャル・ビジネスに限らず、あらゆるビジネスの根源的なテーマである。だからこそ、あらゆるビジネス・パーソン必読の書なのである。だからこそ英エコノミスト誌が2007年(原書がリリースされた年)のベスト10冊に同書を選んでいる(日本語訳の発売が5年も遅れたことは、日本の社会セクターにとって大きな損失だったといえるが)。

これまでの通説を覆す
「目から鱗」の指摘ばかり

 同書が与える最大の衝撃は、「大きな社会的インパクトを与える組織の条件として、ビジネス・スクールで教える指標は関係ない」ということである。

 欧米には(そしてバングラデシュにも)年間予算が500億円を超えるNPO・NGOがいくつもあるが、同書では予算規模の大きさを「偉大さ」の指標とはしていない。「最もブランド力があって、最もマーケティングに優れた組織を分析したものでもない」という。さらには「収入がトップの組織や予算に対する諸経費の比率が最も低い組織を分析したものでもない」という。

 これは正直言って、僕にとっても衝撃的であり、“目から鱗”だった。僕自身もそうだが、多くの「革新的な社会貢献をめざす」論者はほとんどがNPOに対して、ブランディングが大切だ、マーケティング力を強化しろと言ってきたし、欧米のNPOに比べて日本のNPOは予算規模が小さいと批判してきた。経費率の高いNGO(ある種のNGOは経費率が9割にもなる!)も批判してきた。

 しかし、「社会的インパクトの最大化」という、社会セクターの最も重要なテーマからすれば、これらの主張や批判はまったくの的外れだったというわけだ。不明を恥じると同時に、この本は広く読まれるべきだと考え、取り上げた次第である。

 同著では、偉大なNPOに関する通説が間違いだと指摘する。

 まず「完璧な運営」である。調査対象となった組織の中には、「従来の考え方からすれば無責任な運営をしているところもある」という。洗練された業務システムや戦略などは、社会に対して大きなインパクトを与える説明にはならないという。

 「ブランドに対する高い関心」もあまり関係がないという。調査対象の偉大な組織のほとんどは、マーケティングに関心がなかった。