日本人の死への向き合い方の変化に
厚労省作成のガイドラインが影響

 日本人の死への向き合い方の変化には、厚労省が2007年から終末期のガイドラインを作成し続け、「死」を正面から話す舞台づくりに力を入れてきたことも影響しているようだ。

 とりわけ再改定した18年の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」では、「諸外国で普及しつつあるACP(アドバンス・ケア・プランニング)の概念を盛り込み」と解説し、ACPを強調した。ACPを「人生会議」と言い換えて国民に呼びかけたことも話題となった。死を議論する中で、老衰や自然死などが日常会話に上り始めた。

 医療者の方もこうした家族の思いをくみ取りだした。「桜新町アーバンクリニック」(東京都世田谷区)の遠矢純一郎院長は、老衰死について「何かの病気によって命を奪われたのではなく、長く生きた自然の摂理の結果として死が訪れたのだという『老衰』の診断とすることが、遺族へのねぎらいのような意味を持つこともあると思う」と語る。「自然の摂理」であれば家族は納得がいく。

 在宅医の佐々木淳医師は、「老衰と診断名が付くことで、家族も介護職も、看取りケアがきちんとできた結果、病気で死なせたのではなく天寿を全うしたのだと受け入れることができる、という側面もあります」と言う。「天寿」と言われれば、やはり周囲はうなずかざるを得ないだろう。

 さらに、佐々木医師は「老衰は単なる病名とは異なるので『社会的病名』と名付けたい」と話す。確かに、病名が並ぶ他の死因の中で、老衰はしっくりしない。だが、死亡者の85%が70歳以上で64%が80歳以上という日本の「死」の現実を見ると、病名にこだわることの方がしっくりしないのかもしれない。

 自然の摂理や天寿の結果として死を受け入れる。それを老衰死として肯定的に認め出す空気が広がりつつある。日本人の死への基本的な考え方が大きく変わってきたようだ。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)