米国はインテル、中国はSMIC
激化する米中の覇権争い

 中国は、IT先端分野における米国との対立が激化する展開を想定して、独禁法などを運用しているようにみえる。中国企業と取引のある半導体の製造装置、ソフトウエア、さらには、関連する素材や部材分野での買収が今後、難航する可能性は高まっている。また、製造装置は分解できる。中国は外資企業からの技術の強制移転や産業補助金など、あらゆる方策を用いて半導体の微細化技術の開発を強化するだろう。その力は軽視できない。

 トランプ政権以降の米国は、中国企業の成長力を抑えるために、企業の競争よりも、産業政策に注力し始めた。

 その象徴が、米インテルだ。2020年の半導体の売り上げ規模で、インテルは世界トップだが、微細化に関しては、台湾TSMCと韓国サムスン電子の後塵を拝してきた。

 インテルはアリゾナ州に工場を建設し、2024年の稼働を目指す。米国は労働コストや地代の高さを負担してでも、世界最大の半導体メーカーであるインテルの地位をより盤石のものとし、デジタル技術面での影響力を高めたい。

 そのために、米バイデン政権は、半導体だけでなく人工知能(AI)の開発や活用に関しても、対中制裁などを重視する可能性がある。

 中国は、そうした米国の圧力に対抗する。中国SMICは広東省深セン市に旧世代の半導体工場を建設し、2022年の生産開始を目指している。

 ポイントは、稼働時期の早さだ。その狙いは、半導体の需給がひっ迫する中で、最先端の製造ラインを必要としない半導体の供給力を高め、チップの自給自足体制と、より多くの世界シェアを獲得することだ。

 また、長めの目線で考えると、中国の半導体産業が米国への技術依存から脱却するために、独自の設計・製造技術を生み出し、より低価格でのチップ供給を目指す展開もあるだろう。

 半導体分野における米中対立は、より熱を帯びつつあるように感じる。

米中対立の先鋭化は
日本企業にとって実はチャンス

 米国企業であるアプライド・マテリアルズがKOKUSAI買収を目指し、それを中国が承認しなかったことは、わが国の半導体関連技術が米中から必要とされていることを確認する機会となった。

 米国は、自国を軸とする世界の半導体供給体制を確立し、中国の覇権強化を阻止したい。そのために、米国は日本と台湾との連携を強化している。それだけ、米国は、わが国のフォトレジストやシリコンウエハーなどの半導体関連部材や製造装置などに関する技術を、より重要視しているということだ。

 その状況下、アプライド・マテリアルズはKOKUSAIを買収することによってその技術を取り込み、メモリ半導体向けの製造装置市場でのシェアを伸ばそうとしたのである。

 他方、中国企業にとってもKOKUSAIの技術は手放せない。中国政府は米国企業による買収承認に時間をかけ、結果的に期限内に承認しなかった。それは、中国企業が用いてきた日本企業の技術が、米国の対中規制・制裁の対象に含められることは避けなければならないという危機感の表れといえる。

 米中という大国の衝突が激しさを増す中で、KOKUSAIは米国からも中国からも必要とされる立場を確立した。つまり、米中対立の先鋭化は、わが国企業が成長を目指すチャンスと考えられる。

 そのために必要な戦略は、国内の知的財産と技術を用いて、米中双方から必要とされる競争ポジションを確立することだ。

 足元、車載半導体分野では、那珂工場(茨城県ひたちなか市)火災の発生によってルネサス エレクトロニクスの供給力は低下。世界の自動車生産への影響は追加的に深刻化している。

 米中対立から、わが国企業がベネフィットを得るために、事業運営に関するリスク管理体制を強化し、世界各国の企業から信頼され、より必要とされる立場を目指すことの重要性は、かつてないほど高まっているのである。