ブラジル・ボルソナロ大統領Photo:Andressa Anholete/gettyimages

ブラジルでは変異株の発生もあり、新型コロナウイルスの感染が再拡大している。ただ、政府が景気浮揚のために財政政策を積極的に発動してきたこともあり、景気は底打ちの動きを見せつつある。ただ、22年の大統領選挙を控え、景気回復を急ぎたいボルソナロ政権が過度のばらまきに走る懸念が高まっている(株式会社第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濱 徹)

変異株の発生で足元では
新型コロナウイルス感染が再拡大

 ブラジルでは、新型コロナウイルスを“ただの風邪”と揶揄(やゆ)するボルソナロ大統領の下、連邦政府レベルでは感染抑止よりも経済活動を優先する姿勢が取られてきた。

 一方、地方政府レベルでは感染対策を目的に、さまざまな行動規制を課す動きがみられるなど、ちぐはぐな対応が続いてきた。

 こうした状況が感染収束を困難にしてきたなか、足元では同国北部を発生源とする感染力の強い変異株により、感染が再拡大している。新規感染者数が過去最高を更新する動きをみせているほか、地方部では感染急増を受けて病床がひっ迫し、医療崩壊に陥るリスクが高まっている。

 累計の感染者数および死亡者数は米国に次ぐ水準ではあるものの、感染者数に対する死亡者数の比率は米国を大きく上回り、新型コロナウイルスを巡る状況は極めて厳しくなっていると判断出来る。

 ブラジルは昨年以降、新型コロナウイルス感染拡大の中心地となってきたため、さまざまなワクチンの治験が実施されてきたほか、年明け以降はワクチン接種が開始されるなど、他の新興国と比較して早期に事態打開が図られると期待された。

 しかし、世界的にワクチン確保の動きが激化するなかで、確保に手間取る状況が続いた。3月15日には新型コロナウイルス対策で批判の矢面に立たされてきたパズエロ前保健相が更迭され、医師(心臓専門医)出身のケイロガ氏が後任に就くなど、対策の立て直しを迫られた。

 ボルソナロ政権を巡っては昨年、新型コロナウイルス対策に関する大統領との意見の食い違いを理由に保健相が2代連続で立て続けに辞任した。今回の交代により、政権における保健相は4人目だ。

 なお、ケイロガ氏は就任会見において、国民に対してマスク着用と手洗い実施を呼び掛ける一方、経済活動を優先する観点から社会的距離(ソーシャルディスタンス)や都市封鎖(ロックダウン)の実施を回避する姿勢をみせており、同氏の下で感染収束が進むかどうかは見通しが立たない状況にある。