橘玲の日々刻々 2021年4月16日

「測定され、報酬が与えられるものはすべて改竄される」
測定への過剰な執着が生む「測りすぎ」の時代の弊害とは?
【橘玲の日々刻々】

「測定され、報酬が与えられるものはすべて改竄される」

 「測定基準への過剰な執着(測定執着)」は、次のような(誤った)三段論法によって正当化される。すなわち、「測れないものは、改善できない」「測定されるものは実行される」「測定できるものはすべて改善できる」。

 このうち最初(大前提)と2つ目(小前提)は正しいとしても、最後の結論(測定できるものはすべて改善できる)には根拠がない。

 しかしいまではこれが常識となり、すべての組織はアカウンタビリティ(説明責任)を求められるようになった。accountabilityには、「責任をとる」と「カウンタブルである(カウントできる)」という二重の意味がある。成功をカウントするときに重要になるのが「透明性」で、「可能なかぎり多くの情報を明らかにし、可視化する」ことだ。

 「説明責任」と「透明性」によって異形のものとなった測定執着の病理を、ミュラーは次の3つにまとめている。

・個人的経験と才能に基づいておこなわれる判断を、標準化されたデータ(測定基準)に基づく数値指標に置き換えるのが可能であり、望ましいという執念

・そのような測定基準を公開する(透明化する)ことで、組織が実際にその目的を達成していると保証できる(説明責任を果たしている)のだという信念

・それらの組織に属する人々への最善の動機づけは、測定実績に報酬や懲罰を紐づけることであり、報酬は金銭(能力給)または評判(ランキング)であるという信念

 アメリカの社会心理学者ドナルド・T・キャンベルは、「定量的な社会指標が社会的意思決定に使われれば使われるほど、汚職の圧力にさらされやすくなり、本来監視するはずの社会プロセスをねじまげ、腐敗させやすくなる」と述べ、のちに「キャンベルの法則」と呼ばれるようになった。

 イギリスの経済学者がつくった「グッドハートの法則」では、「管理のために用いられる測定はすべて、信頼できない」とされる。これは、「測定され、報酬が与えられるものはすべて改竄される」ということだ。それにもかかわらず測定に執着することには、どこか「カルト的な要素」があるとミュラーはいう。

 「測定の専制」に直面したとき、それにどう対処しようとするのか。これをミュラーは7つにまとめている。

(1)一番簡単に測定できるものしか測定しない
 もっとも簡単に測定できる要素に焦点を絞ることで問題を単純化する。求められる成果が複雑なものなのに、簡単なものしか測定しない。

(2)成果ではなくインプットを測定する
 努力の結果を測定するのではなく、プロジェクトに投入された金額やリソースを測定する。

(3)標準化によって情報の質を落とす
 本来の概念、歴史、意味をはぎとって無理やり比較可能にする。

(4)上澄みすくいによる改竄
 もっと簡単な目標を見つけようとしたり、それほど困難ではない状況の顧客を好む。これによって成功の達成が難しい事例は排除される。

(5)基準を下げることで数字を改善する
 高校や大学では卒業率の目標達成のために合格点を下げている。

(6)データを抜いたり、ゆがめたりして改善する
 警察は重罪を軽犯罪として記録したり、通報された犯罪をそもそも記録しなかったりすることで犯罪率を「引き下げる」ことができる。

(7)不正行為
 測定の結果が重大なほど不正の発生頻度が増える。「落ちこぼれ防止法」で生徒のテストの点数によって学校の存続が左右される状況になったとき、多くの都市の教師や校長が生徒の解答用紙の答えを差し換えるという行為に及んだ。

 どうだろう。同じような経験をしたひとも多いのではないだろうか。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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