ただし、この問題は言うほど簡単ではない。というのは、台湾自体も日本依存から徐々に中国シフトを始めており、また、台湾政府は尖閣の領有権を主張していることから、日米側に簡単に荷担できる立場ではないからだ。

 そもそもTSMCをこのまま日米側にとどめておけるかどうかも決定しているわけではないだろう。

 確かにトランプ政権ではアメリカに大型投資をして、大幅にアメリカシフトを見せたが、そもそもアメリカという国は、工場投資に向いているとはいえないのである。台湾や中国と比べると人件費は圧倒的に高い割に生産性が高いわけでもない。投資効率の悪さを知った上での投資であり、TSMCにとっては妥協にすぎない。

 また、TSMCとしても、経済成長を続ける中国市場を簡単に捨てられるはずもない。TSMCがアメリカを切って中国側に行くことはないにしても、なんとか両てんびんにかけられないかと考えるのは当然である。

 それでもTSMCが完全に中国を切ってアメリカを取れば、半導体技術が欲しい中国による台湾併合のモチベーションは決定的に高まっていくだろう。アメリカが貿易戦争に勝つためには、TSMCをアメリカ側にとどめると同時に、台湾を中国に併合されないことが必須になってしまったわけである。

 日米首脳会談のアメリカ側の目的は、台湾防衛に日本を巻き込むことであったと考えるべきだろう。もちろん、日本としても、対中姿勢に覚悟を決めるべき時期にきており、その点でも共同声明に「台湾」という項目を入れて、スタンスを明確にした意義は大きい。それは、日本に経済面だけでなく、安全保障面でも強い覚悟が求められていることを意味している。