ケース(3)
53歳でリタイア+60歳時点で投資用不動産を売却

【53歳以降のTさんの収支など】
・年間収入額:400万円(不動産収入、53〜69歳)→無収入(60〜64歳)→245万円(年金、65歳〜)
・年間支出額:800万円(53〜54歳)→700万円(55〜56歳)→600万円(57〜59歳)→500万円(60歳〜)
・年間貯蓄額:500万円(52歳の1年間)→700万円(53歳の1年間)

 現在、Tさん一家の年間の貯蓄額は360万円ですが、使途不明金が216万円あると述べました。これを支出ではなく貯蓄に振り向ける方向で考えてみましょう。また、大学3年生である次男の教育費180万円の支払いは残り1年です。

 そこで、これから1年目は500万円、2年目は教育費が浮いた分をプラスした上で少し頑張り、700万円の貯蓄を目標にしてみてください。2年間で1200万円をためるイメージです。

 すると、53歳時点の金融資産は3100万円+1200万円=4300万円になります。退職金は52歳で早期退職した場合よりも微増させて1850万円とします。すると、53歳時の金融資産は6150万円になります。

 次に、53歳以降の支出を考えましょう。次男の教育費が無くなるため、年間の支出は900万円になります。しかし、早期退職を実現したいのであれば生活費の減額に努めましょう。

 とはいえ、急激に生活費を減額するとストレスが溜まるでしょうから、現在の51歳時点で900万円あった年間支出を2〜3年おきに100万円ずつ減額していきましょう。53歳で800万円(=100万円の減額)、55歳で700万円(=200万円の減額)、57歳で600万円(=300万円の減額)、60歳で500万円(=400万円の減額)を目指すようにします。

「9年間で400万円の減額」と聞くと厳しいと感じるかもしれませんが、余裕ある老後の支出は月34万円(生命保険文化センター調べ)といわれています。

 Tさんの場合は生活費を400万円減額したとしても残りはまだ500万円、月額に換算すれば約42万円弱もあるのです。

 では、生活費の減額を前提に60歳までの9年間の収支を試算しましょう。甘い想定かもしれませんが、不動産収入の480万円は60歳まで継続すると仮定します。健康保険や国民年金の支払いが発生するので手取額は400万円とします。

 53〜54歳の支出目標は800万円なので、年間の赤字は、800万円−400万円=400万円。2年間で800万円の赤字です。55〜56歳の赤字は(700万円−400万円)×2年間=600万円、57〜59歳の3年間は(600万円−400万円)×3年間=600万円です。合計で2000万円の取り崩しとなり、60歳時点の金融資産額は6150万円−2000万円=4150万円になります。

 さらにここで、60歳時点で投資用不動産を売却した場合を考えましょう。ケース(3)の投資用不動産の売却額は、評価額の1割減の4500万円とします。すると、金融資産額は4150万円+4500万円=8650万円になります。

 一方、年金の受け取りが始まる65歳までは年間の赤字が500万円、5年間で2500万円の取り崩しになりますので6150万円になります。

 65歳からは年金が支払われますが、早期退職しているので支給額280万円、手取額は245万円とすれば、年間支出が500万円ですので赤字は255万円、金融資産額は6150万円あることから約24年、約89歳まで持つ試算になります。

 厳しいと感じるプランかもしれません。しかし、記載した例のように生活費をダウンサイジングすることができれば、2年後の早期リタイアも可能かと思います。

 何を削減するかはTさん次第ですが、「働きたくない」という希望を叶えるならば、現在の生活費のダウンサイジングは必須です。今回の試算はあくまでも一例ですので、参考にしてご自身でシミュレーションするとよいでしょう。頑張れば、早期リタイアは決して絵空事ではありません。

(ファイナンシャルプランナー 深野康彦)