新型コロナ拡大を機に日本でも急速に広まった「テレワーク」。多くのビジネスパーソンが、WEB会議やチャットツールの使い方など、個別のノウハウには習熟してきているように見えるが、置き去りにされたままなのが「テレワークのマネジメント」手法だ。
これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その解決策を示したのが、パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ同社執行役員の髙橋豊氏が執筆した『テレワーク時代のマネジメントの教科書』だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。

テレワークで<br />効果的なOJTを<br />行うコツPhoto: Adobe Stock

 まずはトレーナー側が仕事の体系化を

 テレワークでは離れた場所で仕事をするため、OJTの段階で組織全体として進みたい方向性、自分自身の仕事の意義や社内における位置付け、日々の業務の手順など、すべてを言語化してなんらかの形にまとめ、トレーナーと新人の間で共有することが必要になってきます。

 これは簡単なことではありません。「毎日なんとなくやっていることだから説明するなんて無理なこと。自分で見て覚えてほしい」と、業務内容を人に伝える労力を惜しむ上司・先輩もたくさんいます。社内に優秀なプレーヤーはたくさんいたとしても、こうしたことをきちんと体系化して伝えられる優秀な指導者は少ない、というのが現実ではないでしょうか。

 余談ですが、最短で2ヵ月で寿司職人を養成する「東京すしアカデミー」という専門学校があります。従来であれば、師匠の背中を見ながら何年もかけて修業をして一人前になるのが当然だと思われていた寿司の世界ですから、なぜこのようなことが可能なのかと多くの注目を集めました。実際は、教材がかなりしっかりとつくり込まれており、学んで、やってみて、フィードバックを受けて、またやってみて、わからないことがあったら教材に戻り……というシステムが非常にうまく機能しているようです。

 これは一般企業でのOJT、とりわけテレワーク下でのOJTにも当てはまる話です。つまり仕事を体系化し、日々の業務内容を書き出し、同じようなものがあったらカテゴライズし、ひとつひとつの手順に至るまでを言語化し、それを見ればすぐに仕事に着手できるような「仕事を体系化した手順書」いわば「仕事マップ」とでも呼ぶべきものを用意するのです。

 これまで自分の仕事をきちんと体系化してこなかった人にとっては新たな発見もあり、非常に有意義な作業になると思います。意外かもしれませんが、これがテレワーク下でOJTに臨むために欠かせない準備です。

「仕事マップ」を用意できたら、トレーナー間で共有しておきましょう。それによって「教える人によって言うことが違う」という問題を防ぐことができますし、トレーナー同士も近い位置で仕事をしている仲間の業務内容をより深く知ることができ、今後の指導に生かすことができるはずです。

仕事の手順書自体は、新人につくらせる

 自分の仕事を体系化して「仕事マップ」をつくるなどアウトプットの準備ができたら、新人に仕事を教える場を改めて設けます。ここであっさりと「仕事マップ」を渡してはいけません。

 新人がZoomなどを通じて、トレーナーにインタビューをするような形で、新人自身に手順書をつくらせることが重要です。前回、「新人の側も能動的に学ばなければ」と話しましたが、この方法ならスタートの時点から受け身ではいられないからです。

 指導する側も一度頭の中を整理しているので、その場の勢いで不正確なことを伝えてしまったり、相手によって違うことを話してしまったり、大切なことを伝え忘れたり、といったことを避けられます。

 デスクを並べていれば、ちょっとした訂正なども思いついたときにできますが、テレワークだとそうもいかないので、間違ったことを伝えてしまうと後々まで影響してしまう可能性があり、こうして事前に整理しておくことが不可欠になってきます。

 テレワーク化が進み“阿吽の呼吸”を頼れなくなると、これまで表情や声音や……という非言語情報が伝達してくれていた部分を言葉で補っていく必要がある、ということはすでにお話ししてきました。この“言語化して共有”という過程を省くと、ときとして認識のギャップが大きな問題を引き起こす可能性もあるでしょう。そうすると、「これは自分の求めていたものではない」という成果物があがってくる、という状況が頻発するようになります。面倒かもしれませんが、ここは徹底しておくことをおすすめします。