現場の社員の脳みそと心に刺さる言葉でいかに伝えるか

 私は以前、IT企業の社長を務めていたこともあります。しかし、私にエンジニアの経験はありませんし、プログラミングやコードなど、自分ではまったく書けません。しかし社長ですから、エンジニアリングの知識を踏まえた判断をしなければなりません。そこで私は、経営者の立場で、自ら現場を統括するプロダクトマネージャーの仕事を担い、OJTのような形でエンジニアリングについて学びました。つまり、3つのタスクを同時進行でこなしていったわけです。もちろん、プロのITエンジニアになるつもりはありませんでした。ただ、IT企業の経営者として、プロのエンジニアとの共通言語は獲得したかったのです。どんなに学んでも分からないことはゼロにはなりません。ただ、共通言語があれば、分からないことがあったとしても、「誰に」「どのように問えば」分かるようになるのかが理解できます。さらに、現場が理解する言葉で話し、現場で働く人々の脳みそと心に刺さるメッセージが伝えられるようになります。ミッションの「丸投げ」や「押し付け」では、経営者が望むような成果は生まれません。現場を動かすためには、共通言語による「理解」と「納得」が必要不可欠であり、経営者には、常に現場と一体になろうとする姿勢が必須になります。

 これは全ての組織に当てはまる話だと思います。例えば、デザインについての専門的な知識を持っていない経営者でも、デザインについて判断しなければならないときがあります。そこで、デザインに興味を持ち、徹底的に学び続けることで、プロと話せるレベルまで自分を高めることは十分に可能です。

 私はブロンコスの“ほとんど全て”の試合を現場で見ています。愛知にも岐阜にも、自分で車を運転して駆け付けています(さすがに同じバスでは選手もリラックスできないでしょうから)。ホテルも自分で予約していますし、選手への差し入れも全て自腹です。「ほとんど全て」というのは、渋滞にはまって間に合わなかった試合が1試合だけあるからです。それが新生ブロンコスの初めてで、今のところ唯一の勝利試合(※執筆時点)だというのですから、皮肉なものです(笑)。

 バスケに関する基礎的な知識を身に付けるだけでなく、実際に自分のチームと他のチームをしっかり見ているからこそ、選手やヘッドコーチとの共通言語を持つことができていく。契約を勝ち取るか勝ち取れないか、選手やヘッドコーチたちは毎年勝負をしています。だからこそ経営サイドも必死でバスケとチームを理解しないと、失礼極まりないことになります。ビジネスであれスポーツであれ、「現場」が大切。私はいつもそう思っています。