つまり、国の地価政策、住宅政策に関する先行き不安とは全く関わりなく、現状では都市圏中心部およびその近郊の住宅市場は活性化しているとみることができる。

 先日、一部報道で昨年4~9月における全国平均の取引価格が前年比6.2%減とあったが、首都圏などは正反対の状況にある。

 ただし、住宅価格の先行きに対する不安要素もある。実は東京都もしくは東京23区からは人が流出し始めているからだ。

 地域間の人の移動を住民票ベースで調査している総務省の「住民基本台帳人口移動報告月報」によれば、東京都および東京23区からは2020年6月以降2021年2月まで8カ月連続の転出超過(=流出する人口が流入する人口を上回る現象)が続いている。

 同じ首都圏において、コロナで仕事を失った人などが多数流出している一方で、一定の所得者層以上では住宅需要の拡大が顕著になるというのは、経済的格差の拡大が進んでいることを暗に示しているようにみえる。

 医療、福祉、教育、安全、雇用などと並んで住宅政策は国の重要政策の一つであり続けている。特に住宅はいったん取得すれば長期にわたって安定的に都市計画税や固定資産税、住民税などの税収が見込まれるため、住宅取得策は常に経済政策の柱とされてきた。

 都市圏、特に東京都心・近郊で住宅価格が上昇するというのは市場性や利用価値の高さといった側面から見て正しいとしても、長期的に見れば決して歓迎すべき現象ではない。経済的格差の是正という観点から、さらに土地・住宅政策を見直す必要があるのではないだろうか。

(記事は個人の見解であり、執筆者が所属する会社の見解を示すものではありません)。