「笑い」と「イノベーション」に潜む意外な共通点笑いが起こるメカニズムとは? Photo:PIXTA

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。

「人を笑わせ、考えさせた業績」に
贈られるイグノーベル賞

 世界的に優れた学問の成果をたたえるノーベル賞は、毎年多くの人々の注目を集める。受賞者の知名度は上がり、世界中の多くの人から尊敬される。ノーベル賞の対象となった研究成果や活動は、世界に有益なものであり、人々の視野を広げてくれる。

 一方で、注目度ではもちろんノーベル賞にはかなわないが、「視野を広げる」という点では、「イグノーベル賞」も引けをとらないのではないか。1991年に創設されたイグノーベル賞は、ノーベル賞のパロディーであり「人を笑わせ、考えさせた業績」に贈られる。

 このイグノーベル賞は年に1回数名が受賞するのだが、実は14年連続で日本人が受賞者に含まれている。2020年には、京都大学霊長類研究所准教授の西村剛氏が「イグノーベル音響学賞」を受賞。受賞理由は「ヘリウムガスを使うとワニのうなり声も高くなることを発見したことに対して」だ。

 ヘリウムガスを吸うと、人の声が、音程の高い、いわゆる「ファニーボイス」になることはよく知られている。きわめて古典的なギャグとして昔のコメディアンが使っていて、パーティーグッズの定番の一つにもなっている。西村准教授は、それをワニで試してみたというわけだ。

 もちろんこれは大真面目な研究で、別に西村准教授がウケを狙って(あるいはイグノーベル賞をもらうために)行ったわけではない。謎に包まれているワニの発声のメカニズムを解明するための実験だ。だが、ワニがドナルドダックのような声を発すること自体が面白いし、その様子を研究者が真剣な眼差しで見つめている場面を想像すると、笑いがこみ上げてくる。