重要なのは紙ではなく、紙に書いてある「情報」

 ソフトバンクにおけるペーパーレス化の動きが本格化したのは、2012年4月の決算発表で孫正義社長(当時)が「ペーパーゼロ宣言」を打ち出してからだ。この根底には「重要なのは紙ではなく、紙に書いてある情報」という考えがある。この考えがあったからこそ、ソフトバンクにおけるペーパーゼロをDXの出発点とすることができたといえる。

「DXの第一歩はペーパーレス」10年前に紙をなくしたソフトバンクは、今どうなっているのかソフトバンクにおけるペーパーレス化は、DXの出発点 写真:ソフトバンク
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 ペーパーゼロ宣言以前、2011年度はソフトバンク社内で少なくとも3億3000万枚の紙を使っていたが、宣言以降、さまざまな施策を打ち出していき、2020年度は全社で1000万枚以内に収まる見込みとなるほど紙の量を減らせたという。

 では、具体的にはペーパーレスに向けてどのような施策を打ち出していったのか。まず、3億3000万枚のうち2億3000万枚を占めていた携帯電話などの申込書類を削減するために、新たに専用のシステムを導入し、契約がすべてペーパーレスでシステムの中で完結するようにした。

 残りの1億枚はオフィスで使っていたものだ。これを削減するため、紙がなくても仕事や会議ができるように、従業員に配布しているノートパソコンやiPhone、iPadの活用を促すとともに、会議室にはディスプレイやテレビ会議システムなどを整備した。

社内で使う「紙」を、
レッド・グレー・ホワイトの3レベルに分類

 そして、各部門で印刷している文書を3つに分類した。今すぐに印刷を止められるものを「レッドリスト」、今すぐには減らせないが、システム化などの工夫で減らせそうなものを「グレーリスト」、法令順守などのために当面は印刷しなければならないものを「ホワイトリスト」という具合だ。

「DXの第一歩はペーパーレス」10年前に紙をなくしたソフトバンクは、今どうなっているのか文書をレッドリスト、グレーリスト、ホワイトリストの3種類に分類し、削減できるものから削減していった 写真:ソフトバンク
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 さらに、「情報保管ガイドライン」を作成して全社員に提示したという。ガイドライン提示前は、紙の保管方法は定めていたが、いつ捨てるのかを決めていなかったため、保管期間と廃棄時期をはっきりさせて、保管する紙の量を減らすことを狙ったのだ。保管が必要だが、現物の紙が必要でないときはデータ化して紙を廃棄するなど、残しておくとしても極力データで残して紙を廃棄する方針を打ち出した。

「DXの第一歩はペーパーレス」10年前に紙をなくしたソフトバンクは、今どうなっているのか文書の保管方法だけでなく、廃棄の判断基準も設定した 写真:ソフトバンク
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 そして、宣言から現在までのペーパーレスの効果を金額に換算すると、年間12億円を削減できたという。驚くべきことに、そのうちおよそ60%が、従業員が紙の準備に費やしていた工数だということだ。会議資料の準備や印刷、コピーなどに従業員1人当たり、1カ月におよそ1時間費やしていたという。紙に書いてある情報には関係のない作業に時間を費やしていたということだ。その時間を集計して、人件費に換算すると年間およそ7億2000万円にも達していた。

 吉岡氏は、ペーパーレスに取り組むことで得られる効果として、従業員が雑務から解放されるという点と、情報が紙ではなくデータで流れるようになるため、意思決定のスピードが上がる、さらに、場所にとらわれない働き方にも対応しやすくなる点を挙げた。