【シーン1】vs保護者~夏休みの宿題廃止~
「子供が駄目になる」と詰め寄られたら?

 沢田氏は小学校の夏休みの宿題を廃止した。教師は用意や確認の時短になるし、子供も「つまらないことをやると勉強が嫌になる」と考えたからだ。

 例えば夏休みの宿題の定番である読書感想文。自身が子供の頃は「後書きを写していた」と告白する沢田氏。「読みたくない本を課して読書嫌いが増えるくらいなら、読まなければいい。もっと自由に本を読めばいい」と廃止を決断した。

 保護者の8割は「宿題をしろと追い立てなくて済む」と歓迎したが、2割は不安、不満の色を見せた。一部の保護者は「宿題をやらないと子供が駄目になるのではないか」「子供が勉強しなくなったらどうしてくれるのか」と詰め寄ってきた。

 沢田氏はこう応じた。

「ご自身は宿題があったから進んで勉強するようになりましたか?それで勉強ができるようになるんだったらそんな簡単なことはない。親が安心するだけじゃないですか?」。そして「夏休みはあなたの子供にしかできないことをやればいい。その方が、よほど力が付きます」と説いた。

 教師たちには夏休みだけでなく、普段の宿題も「つまらないものならば出さなくていい」と伝えた。授業さえ楽しければ、子供たちは一生懸命、自ら勉強するからだ。

【シーン2】vs保護者~部活動~
「もっと練習をして」と懇願されたら?

 小学校の校長になる前に沢田氏は、公立中学校でも勤務した時期があり、部活動の顧問をしていた。このとき保護者から「もっと練習をしてもらえませんか?」と懇願された。

 沢田氏は笑顔でこう切り返した。

「あなたのパートナーがわが子をほったらかしにして土日も出勤するのを、ニコニコして見送れますか?」

 すると保護者からは「ですよね!」と返ってきた。

 沢田氏は小学校の校長時代、保護者に配る学校便りに「先生の働き方は間違っています」「今、学校では働き方改革をしています」と教頭に書いてもらっていた。「校長の意を酌んで動いてくれる教頭(あるいは副校長)の存在が、働き方改革を進める上で非常に重要」という。

【シーン3】vs保護者~入学式~
「先に言えば説明、後から言えば言い訳」

 職場とわが子の入学式の日時が重なった場合、教師は職場を選びがちだ。しかし、沢田氏は校長命令でわが子の入学式に行かせていた。保護者は教師の不在を不思議に思うだろう。

 そこで沢田氏は先手を打ってこう説明した。

「××先生はわが子の入学式に行きました。わが子を幸せにできない人間が、皆さんのお子さんを幸せにできますか?」

 会場は拍手喝采。論理的に説明すれば、保護者にわがこととして考えてもらえる。そして一事が万事、教師の働き方改革全体への理解につながる。

「先に言えば説明、後から言えば言い訳。だから常に先に言った方が勝ち」と沢田氏。年間の節目ごとに同様のメッセージを発信し、着々と保護者を味方に付けていった。

【シーン4】vs教育委員会~前例主義~
「じゃあ私が前例を作ります」

 地域の教育行政を管轄するのが教育委員会。役所独特のバランス意識が働き、何事にも慎重な場合が多い。沢田氏の発案について「前例がありませんから……」と渋る教育委員会に対し、沢田氏はこう言い放った。

「じゃあ私が前例を作ります」

 沢田氏は「教育委員会が言い出すと非難を浴びるということがある。だから校長こそ働き方改革を主導すべきだ。学校単位で前例を作れば、教育委員会はきっと背中を押してくれる」と説く。

【シーン5】vs他校の校長~保身~
「出過ぎた杭は打たれませんから」

 教育界の実質的な“上がりポスト”は校長だ。保身、同調圧力、しがらみなどを背景に、残念ながら前例踏襲型の校長が多いという。

「出る杭は打たれますから……」と尻込みする他校の校長に、沢田氏はいつも明るくこう呼び掛けていた。

「出過ぎた杭は打たれませんから、皆で出ちゃいましょうよ」

 沢田氏は今、全国の校長にこう呼び掛けたい。「校長は、企業でいえばCEO(最高経営責任者)。文部科学省や教育委員会の改革を待つのではなく、校長が勇気を持って思い切った判断をすれば職場は変わる」と。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata