森喜朗氏の女性蔑視発言、
報道ステーションのウェブCM炎上も…

白河 心理的安全性が低い現場として、分かりやすい実例が二つあります。

 一つが、(東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会前会長の)森喜朗氏の女性蔑視発言です(2月に「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と公の場で発言し、ジェンダー差別発言がきっかけで辞任することになった)。あの場が心理的安全性のない場所だから、問題が止められなかったのではないかと思いました。

石井 「会長、その発言はまずいですよ」って、周りが誰も言ってくれなかったわけですよね。

白河 一緒に笑っていたりしましたよね。

 もう一つが「報道ステーション」の炎上CM問題。聞いたところ、テレビ朝日内で、事前に公開された際に違和感を持っていた人たちもいるんです。でも、お金をかけて作ったCMを、しかも上司がすでにOKと言ったのに、部下が「公開をやめませんか」と言えるかというと、言えないのが現実です。でも言えたら止められたかもしれない。心理的安全性が高い場所なら、外部の専門家に頼るまでもなく、社内のリソースを生かせるはずなんです。率直に意見を言える環境になることが大事です。

白河桃子白河桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、ジャーナリスト、作家。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。 住友商事、外資系金融などを経て著述業に。ダイバーシティ、働き方改革、ジェンダー、女性活躍、ライフキャリアなどをテーマに著作、講演活動を行う一方、「働き方改革実現会議」「男女共同参画会議 重点方針専門調査会」「テレワーク普及展開方策検討会」など多数の政府の委員を歴任。近著に『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など。

罰を与えるマネジメントで、上司は裸の王様化

石井 管理職の人に知ってもらいたいことが一つあります。部下に厳しく接したり、罰を与えたりする管理職の方がいますが、そういったマネジメントは、部下の行動を「減らす」効果を持つ、ということです。

 ですから、仕事中にふざけたことをしているメンバーがいたら厳しく対処して、そのふざけた行動を減らしてもらうということは十分理にかなっています。ただ、メンバーにもっと成果を上げてほしいときにも、厳しく接するじゃないですか。それが積み重なっていくことで、部下は必要な行動も減らしてしまうんです。

 部下が良かれと思って課題を見つけても、上司に「じゃあ、お前やっとけよ」と言われる。そういうことを繰り返されると、「課題を見つけたけど、言わない方がいいかな」と思ってしまう。そうやってどんどん情報が集まらなくなって、上司は「裸の王様化」します。