冨山 これからのサイバー空間における産業は、さまざまな産業がミルフィーユのように層になってつながりあう「レイヤー構造」になっていくのに、縦割りからスムーズに移行できないのです。

宮田 まさしくその通りです。大量生産・大量消費モデルが終わりを迎えています。今までは、個別化してニッチなマーケットをカバーするのは効率が悪かったのですが、各分野のビジネスがサイバー空間とつながることによって、個々の顧客のニーズに対応した商品・サービスの個別提供が可能になりました。データを使って「何が望まれているのか」「何が心に響くのか」を確認しながら、生活者と一緒に価値をつくるという形にどんどん移行しています。

冨山 ビジネスとしての発想を大転換させなければいけません。さまざまなレイヤー構造のどのレイヤーで、自分たちは優位性をつくれるのかを考えなくてはいけないでしょう。DXというよりはもっと幅広く企業を揺るがす課題として、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」(持続可能性を重視した経営変革)として積極的に取り組んでいく必要があります。

宮田 私も同感です。日本の企業はようやくデジタルが大事だという意識をみんなが共有するところまで来ていますが、その先をどうするのか。業界そのものが大きく変わり、融合することが必要とされる時代に、「では何をやるのか?」ということが非常に重要になってきています。

日本の経営者が国際会議でやりがちなNG行動とは?

――社会や経済の価値基準や判断の物差しがずいぶん変わりますね。

宮田 そうですね。サイバー空間が領域を超えてつながって、新しい未来をつくり始めているのですが、企業の描くビジョンも今、どんどん変わりつつあるんです。

 例えば、米国のテスラの株価が高騰し、時価総額が信じられない額(4月12日現在で約6980億ドル)になっています。CEOのイーロン・マスクは何をしたいと言っているかというと、自動運転の電気自動車(EV)を生産して世界一の自動車会社になろうというわけではないんです。サステナブルな未来をつくりたいと言っています。

 そのカギとなるのが電池、いわゆる長時間使用できる蓄電装置。その電池の技術を進化させる手段が、今はEVだというだけ。手段として、テスラは今たまたま車を造っているだけなんです。そして、それによって可能になる未来に、みんなが賭けているという形です。