橘玲の世界投資見聞録 2012年11月1日

[橘玲の世界投資見聞録]
香港で目の当たりにした“プライベートバンクの終わり”

 これではまるで犯罪者みたいだが、2008年5月、プライベートバンク最大手UBSのアメリカ部門トップが米司法当局に拘束され、このときの印象が間違っていなかったことが明らかになる。

 報道によると、スイスのUBSには米国内の顧客を担当する70〜80人のプライベートバンカーがおり、観光などを装って頻繁にアメリカに入国していた。出張にあたって書類の携行はいっさい許されず、暗号化されたパソコンを使い、顧客をコードネームで呼び、プリペイドの携帯電話で海外経由の通話をし、ホテルを頻繁に変え、当局に質問された際は黙秘権を行使して弁護士に連絡する規則になっていた。

 なぜUBSがこんな「スパイ集団」になってしまったかというと、彼らのビジネスが、アメリカの富裕層の脱税幇助だったからだ。その結果UBSは、約5000件の顧客情報を米司法当局に提出し、7億8000万ドルの罰金を支払うことになった。

 しかしこれは氷山の一角で、プライベートバンクは世界じゅうで同じようなことをやっていた。違法だとわかっていながらも、それ以外に業績を維持する方法がないから、やめられなくなってしまったのだ。

 その当時は香港でも、UBSとクレディスイス、HSBCに「ジャパンデスク」と呼ばれる日本人顧客専門の営業部門があって、日本人と日本語を話す香港人のプライベートバンカーがいた。そんな彼らが定期的に日本を訪れて新規顧客を開拓し、金融商品を販売していたのだ。

その外観から「蟹ビル」と呼ばれるHSBC香港本店 (Photo:©Alt Invest Com)

 ところで、プライベートバンクは日本の富裕層にどんな金融商品を販売していたのだろうか?

 日本語のパンフレットを見せながら彼が説明してくれたところによると、一番の売れ筋は、一定の範囲で元本が保証され、5~10%の金利がつき、日経平均が大きく上がるとボーナス金利がもらえるという仕組み債だった(逆に日経平均が大きく下落すると損失が生じる)。それ以外にも、米ドルやオーストラリアドルに連動するものなど、さまざまな仕組み債を扱っていたが、「(外貨建て)元本確保」で「高金利」なのはどれも同じだった。

某プライベートバンクの応接室から九龍サイドを眺める (Photo:©Alt Invest Com)

 こうした金融商品は会社が販売目標を決め、それがプライベートバンカーのノルマとなって、自分の顧客に営業・販売するのだという。プライベートバンカーというと格好よさそうだが、その実態は訪問販売で百科事典を売るのとたいして変わらない。

 それからちょうど3年後に、私は彼の話を思い出すことになる。

 クレディスイス香港が日本の富裕層に販売していたのは、元本保証のついた「安全な」金融商品だった。資金はグローバルな大手金融機関が責任をもって運用することになっていた。

 そのとき私はいくつかの金融商品を案内されたのだが、元本保証している金融機関はどれも同じだった。パンフレットには、「リーマン・ブラザーズ」と大きく印刷されていた。

香港の宴…

 香港の金融マンと知り合って、チャイナクラブやジャッキークラブ、マリーナクラブなど、一般人は出入りできないあちこちの“秘密クラブ”に連れて行ってもらった。そのなかでもいちばんの思い出は、世界じゅうからVIP顧客を集めたパーティに招待されたことだ。

 香港までの航空運賃とホテル代もすべて金融機関持ちで、アイランドシャングリラ・ホテルの大宴会場を貸し切り、司会は香港の芸能人で、ドラゴンダンスなどの出し物が次々と演じられる華やかなものだった。テーブルでいっしょになったのは、ニュージーランドで広大な農場を経営しているという華僑の夫婦と、カナダのバンクーバーを中心にスーパーマーケットチェーンを展開している華僑の一族だった。

 パーティの最後は楽団が入って、社交ダンスが始まった。80歳近いだろう華僑の大富豪は、奥さんをともなって、見事なステップでワルツを踊った。

 あの頃はみんな自信に溢れていて、金融ビジネスはきらきらと輝いていた。

 リーマンショックから4年たち、すべては幻のように消えてしまった。

『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 』

作家・橘玲が贈る、生き残りのための資産運用法!
アベノミクスはその端緒となるのか!? 大胆な金融緩和→国債価格の下落で金利上昇→円安とインフレが進行→国家債務の膨張→財政破綻(国家破産)…。そう遠くない未来に起きるかもしれない日本の"最悪のシナリオ"。その時、私たちはどうなってしまうのか? どうやって資産を生活を守っていくべきなのか? 不確実な未来に対処するため、すべての日本人に向けて書かれた全く新しい資産防衛の処方箋。 

★Amazonでのお求めはコチラをクリック!
★楽天でのお求めはコチラをクリック!

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。


幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,650円(税込) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額880円(税込)
いますぐ試す(20日間無料)
 

 

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。