そして、最後に算数。これは、起業家が持っているべき数字感覚のことだ。特に大事なのは、「おカネ」という数字だ。当然だが、事業である限り、もうかるように仕組み化しなければ続かない。

 企業に雇われている側のときには気づきにくいが、私たちは会社に存在しているだけでカネを食っている。最も分かりやすいのは給料やオフィスの家賃だろう。自分で事業を始めてみると、おカネの問題は避けて通れないことだと思い知る。おカネという数字に対する感度が鈍いと、「もうかる」と思っていた事業が最終的には赤字になったり、「これはトントンかな」と思っていたものが大赤字になったりする。数字に対する感度が鈍いことは、事業を行う上で致命的になることを覚えておいてほしい。

 以上のように、何を思って行動し(道徳)、どう表明し(国語)、それがどのような数字(算数)になって表れてくるかという一連の流れは、起業をする上で欠かせない。新規事業は、道徳、国語、算数が一気通貫してこそ成功するのだということをまずは知っておいてほしい。

コロナ禍で起こった
二つの大きな進化

 その上で、新型コロナウイルス感染症のまん延は、3教科にそれぞれどんな影響を与えたのだろうか。端的にいうと、道徳も国語も算数もすべて転換を求められた。売り上げが吹き飛び、出社ができず、人と会うことさえもはばかられる日々では、これまでの常識は通用しなくなった。

 しかし、必ずしもマイナス面だけではなかったのではないかと僕は思う。少し唐突かもしれないが、10年後の未来にジャンプして、コロナ禍を振り返ってみてほしい。未来から振り返ると、「困難な時期ではあったが、進化のタイミングでもあった」という見立てができるのではないかと思う。

 特に「デジタル化に対するマインドの変化」と「既得秩序に対するマインドの変化」の二つは、5年くらい時計の針を進めたほどの大きな進化であった。

 一つ目の「デジタル化に対するマインドの変化」は、実体経済のオンライン化進化率を超えて、わが国のデジタル化を急速に前進させた。見方を変えると、「デジタル化を阻んできた抵抗勢力の没落」である。