「おれの目はフシ穴じゃないぞ。君の仕事の仕方は認めない」

 社員の評価を成果主義で行なっているある中堅IT企業の社長は、声を荒げた。説教されたのは、協調性がなく仕事も不真面目という、評判の「フダ付き社員」だ。しかしこの社員、今期は予想以上に奮闘し、同僚を上回る評価を初めてもらった。ところが、人事部にそれを聞いた途端、社長が顔色を変えてその社員を呼びつけたというのだ。

 「結局、成果主義を導入した社長自身が、制度を信頼していないために起きた事態」と語るのは、同社の人事担当者。仕事の過程ではなく結果だけで社員を評価する成果主義では、経営者や人事部が目をかけている社員が必ずしも高い評価を得るわけではない。もし意外な社員が高い評価を得ると、制度の運営者側が不安を覚えて、取り乱してしまうのだ。

 結局この社員、高い評価を得たにもかかわらず、社長に怒られたあげく減給されてしまったというから、無茶苦茶である。一部始終を目撃した人事担当者は、「こんな制度をいつまで続けなければいけないのか」と頭を抱えた。中で働く社員は「気の毒」としか言いようがない。

成果主義熱は一気に冷め
水面下でじわじわ形骸化が進む

 実のところ、巷にはこんな企業が少なくないというから、驚きである。

 バブル崩壊後の1990年代、人件費削減の必要性に迫られた日本企業は、終身雇用制や年功序列制を捨て、我先にと成果主義を導入してきた。現在、大企業の8割方が何らかの形で成果主義を導入している。

 「その成果主義が今やすっかり形骸化し、社員が活力を失うケースが水面下で増え続けている」と打ち明けるのは、ある労働問題の専門家だ。

 「なぜ水面下か」と言えば、成果主義の運用実態が外部から見えずらいため。失敗を認めると企業イメージに傷がつくので、労働機関やマスコミのアンケートには、ほとんどの企業が「成果主義をきちんと運営している」と回答するのが常だ。このようなトレンドが最近ますます強まっているため、実態は関係者にしかわからないのである。

 振り返ってみれば、成果主義の問題点が指摘され始めたのは、最近のことではない。2000年以降、巷ではすでに広く論じられて来た。

 制度のメリットとデメリットを吟味しないまま、場当たり的な導入が増えた結果、現場では数々の問題が噴出。社員間で賃金・待遇格差が不自然に拡大したため、個人主義の蔓延によるいがみ合いや長時間労働が常態化したのだ。社員がすっかり疲弊してモチベーションを失い、深刻な業績不振を招いた富士通のようなケースまである。