滞納問題に立ちはだかる
法定相続人の存在

 次に、高齢の区分所有者が死亡した場合を考えてみよう。乱暴に言ってしまえば、孤独死でない限り、本人が自宅で亡くなろうが、病院で亡くなろうが、区分所有者が亡くなること自体は管理組合に直接の影響はない。問題は死亡後の財産処分である。あまり表だってはいないが、財産処分や相続問題に管理組合が悩まされるケースが思いのほか多いのだ。

 最も多い問題は、本人が管理費や修繕積立金を滞納していた場合で、滞納金を請求するために、管理組合は法定相続人の存在を確認することになる。この法定相続人探しが非常に厄介なのだ。亡くなった被相続人(以下は「本人」という)の法定相続人調査に数年を費やしたなどという話も珍しくはない。

 まず、死亡した本人の本籍地にある市町村役場へ戸籍謄本を請求する。死亡時の戸籍からひとつ手前の本籍地を確認して戸籍謄本を取得し、さらにその手前の……というように、戸籍をひとつずつさかのぼって、本人の出生から死亡時までの戸籍謄本をすべて集め、判明した法定相続人全員と連絡を取る必要がある。

 ところが、高齢の兄弟は施設に入居している、あるいは海外勤務や海外移住で日本にいないなど、さまざまな理由で法定相続人と連絡が取れないというのもよくあることだ。あるいは、内縁の妻がいたり、家族構成が複雑で法定相続人の特定ができないという事情も出てくる。実際にあった事例として、法定相続人が犯罪者で収監されていたため、対応ができなかったというケースもある。

 法定相続人が複数いて、その意見統一に時間がかかっている中で法定相続人の一人が死亡し、その法定相続人がまた複数出てくる、ということもある。法定相続人が本人の兄弟の場合には、二次相続が起こりやすいのだ。このように、法定相続人全員を割り出すまでには、非常に多くの時間とコストに加え、大変な労力がともなうことになる。

 または、たとえば10人いる法定相続人全員に対して、本人が滞納していた管理費や修繕積立金の支払いを求めても、意見がまとまらず、支払いをなすりつけ合ったりするため、訴訟にならざるを得ないケースがある。さらに、なんとかマンションの売却まで話が進んだとしても、マンションに抵当権が付いていたり、売却価格が低くて滞納額が回収できないということもある。それらの取りまとめを輪番制の理事が対応するのは荷が重すぎるだろう。

 冒頭に紹介した高齢女性の話の場合は、管理費や修繕積立金の滞納もなく、年齢的に足腰は少し弱ってきているものの生活に大きな支障はないといい、頭もしっかりしていて、認知症の気配もないようだ。本人の判断能力にも問題はないため、自室を管理組合に寄贈するという希望をかなえることも可能だ。

 ちなみに、このケースの場合、管理組合が所有権の移転登記をするには、管理組合が法人化している必要がある。マンションの管理組合は「権利能力なき社団」として扱われ、法律上の権利関係の主体となることができないからだ。