朝日新聞のマニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地のフリーペーパー編集長を務めた木村文記者が、カンボジアの若者の間で活用が広がるフェイスブックの現状についてレポートします。
モデルコンテスト優勝の女性に起こった悲劇
19歳の誕生日を迎えた9月29日、プノンペンに住むリム・スレイピッさんは、おそらく得意の絶頂にあった。
その日彼女は、カンボジアで若者に人気のワインクーラー「スパイ・ワインクーラー」の主催で行なわれたモデルコンテストで優勝。プノンペン市内のクラブで、若い男女の熱い視線を浴びていた。長い髪を明るい茶色に染め、流行のファッションを着こなすスレンダーなスレイピッさんには、モデルの仕事が舞い込み始めていたという。
だが幸福はわずか1カ月後に幕を下ろした。10月23日、スレイピッさんは3カ月ほど前に知り合った女の家に呼ばれ、そこでロープで首を絞められた。女は気絶したスレイピッさんの口をテープでふさぎ、35キロ離れたコンポンスプー州まで運び、運河に捨てて殺害した。
逮捕された女は、サン・キムヘン容疑者(23)。キムヘン容疑者は、スレイピッさんを殺害した後、スレイピッさんの携帯電話を使って、プノンペン近郊のカンダール州で車の販売店を営む彼女の夫や両親に、5万ドルの身代金を要求したとされる。
どんなやり取りがあったのか警察発表からは判然としないが、容疑者はなぜか身代金の減額に応じ、金額は最終的に1万6000ドルになった。そして、プノンペンの目抜き通り、モニボン通りにある銀行で金を引き渡すよう指示。本人がその場へ出向き、両親からの通報を受けて銀行で待機していた警察にあっさり逮捕された。
裕福な家庭の娘を狙った犯罪としては、決して珍しくはない事件。身代金の減額に応じたり、銀行でカネの引渡しをしようとしたり、犯行の手順も極めて稚拙だ。だが、この事件が地元紙の一面やテレビニュースのトップで騒がれているのには別の理由がある。
殺害されたスレイピッさんとキムヘン容疑者は、事件の3カ月ほど前、「フェイスブック」で知り合っていたのだ。地元警察はこれを「カンボジアで初めてのフェイスブック殺人事件」と呼んだ。

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