全社員に禁煙を強制することは
法律的に問題はないのか?

 翌日、E社長はF社労士にAの件について詳細を説明した。そして、「会社の敷地内全部を禁煙にすることに関して、法律的には問題ないでしょうか?」と尋ねた。

 E社長の質問を受けたF社労士は、まず企業の権限と労働者が守るべき義務について説明をした。

<企業の権限と労働者の義務について>
(1)企業には、企業内の秩序を維持する権限(企業秩序定立権限)があり、労働者の労働義務の遂行について労務指揮を行い、業務についての命令権を持っている。

(2)労働者は、(1)に対して勤務時間中は下記の義務を負う。
 ○企業の秩序を乱さないように遵守すること(企業秩序遵守義務)。
 ○労働する場所・労働の内容や遂行方法などについて、企業の指揮に従って労働を誠実に遂行すること(誠実労働義務)。
 ○労働時間中は職務に専念し、私的な活動を控えること(職務専念義務)。

(3)使用者は上記の(1)(2)を根拠として、労働者に対して勤務時間中の喫煙を禁止することは可能だが、その理由には必要性と合理性がなければならない。

「その必要性と合理性とは、具体的にはどんなことですか?」
「では、甲社の場合を例にとって説明してみます」

<勤務時間中は禁煙とする必要性と合理性について・甲社の場合>
(1)Aらが業務の途中で離席してたばこ部屋で過ごす間、自身の仕事を中断することになるので、Aらの作業効率が下がる可能性があること。
(2)Aらの離席により、業務負担や休憩時間の長さ(喫煙のための離席は「サボリ」とみなす)等で同じ部署の社員たちから不満感を持たれていること。
(3)Aらが喫煙から戻ってきた際、衣服や呼気に残っているたばこの臭いが他の社員に苦痛を与えていること。
(4)(3)について、甲社は健康増進法および労働安全衛生法の改正により、受動喫煙を防止するための適切な措置を取る旨の努力義務が課されていること。
(5)たばこ部屋を設けることにより、管理の煩雑さなど施設の利用効率の低下を招いていること。

 F社労士は続けた。

「さらに、企業には施設管理権があり、その施設で働く人々の安全に配慮しなければならないので、就業規則で『会社施設内を全面禁煙とする』と定めることは問題ありません」