2020年に開業70周年を迎えた西武園ゆうえんちは、「心あたたまる幸福感に包まれる世界」をコンセプトにリニューアル工事を進めてきた。そして2021年5月19日、ついにグランドオープンを迎えた。コロナ禍にもかかわらず、客足は予想を上回り好調だという。リニューアルを指揮したのは、USJを再建したことで知られる森岡毅氏率いる株式会社 刀である。『苦しかったときの話をしようか』などの著者としても知られる森岡氏は、西武園ゆうえんちをどうやって立て直そうとしているのか? そこには刀ならではの知恵が散りばめられていた。(取材/ダイヤモンド社・亀井史夫)

“昭和の街”として甦った西武園ゆうえんちに<br />刀が吹き込んだ“持続可能な仕組み”

昭和を精巧に再現した「夕日の丘商店街」

西武ゆうえんち駅を降りると、正面の丘に聳え立つ古めかしい洋館に見下ろされる。どうやらこれは、リニューアルの目玉である『ゴジラ・ザ・ライド』を上映する映画館のようだ。そして右手には、なんだか懐かしい昭和風の商店街が続いている。街には昭和の懐メロが流れ、『三丁目の夕日』を彷彿とさせる昭和の世界に引き込まれるようだ。

『夕日の丘商店街』は昭和の街並みを精巧に再現している。建物や看板だけでなく、細かな装飾の一つひとつまでこだわり抜いた表現がされている。1階が商店で2階が住居という昭和の街並みらしく、2階の軒先には洗濯物が干されている。壁に貼られた求人広告は朽ちかけている。電器店を覗くと、昔懐かしい電気製品が現役ヅラしてずらりと並んでいる。駄菓子屋には子どもの頃を思い出させるお菓子やおもちゃがひしめいている。本当に数十年前にタイムスリップしたような気分にさせてくれる。向こうで「ポン!」と大きな音がした。何かと思えば、米をはざしたポン菓子をふるまっている。

これらの店では実際に買い物もできる。ただし昭和ゆえ、電子マネーなどは流通していない。『西武園通貨』なるお札を手に入れないといけない。ここでは、買い物そのものが貴重な「体験」、エンターテインメントなのだ。

威勢のいいバナナの叩き売りを冷やかしていると、あちらで「待てい!」という叫び声が聞こえた。何かと思えば、泥棒と駐在の大捕物帳だ。バック転して逃げる泥棒を追いかける駐在。まったく、賑やかで楽しい街角だ。

“昭和の街”として甦った西武園ゆうえんちに<br />刀が吹き込んだ“持続可能な仕組み”

歩き疲れたら、ちょっとモダンな『喫茶ビクトリヤ』で休憩するといい。ナポリタンスパゲティやらクリームソーダやら、ノスタルジックな味がお腹を満たしてくれる。

商店街を抜けると、巨大な展望台や海賊船を模したバイキング、大観覧車などが迎えてくれる。これらも昭和の雰囲気を醸し出し、いい感じにレトロだ……。

いや、よく見たら、これはかつて西武園ゆうえんちにあったアトラクションそのままではないか! しかしパーク全体が同じ色に染められているので、ちっとも違和感がない。

その左手には新設の『レッツゴー!レオランド』が広がる。手塚治虫の『ジャングル大帝』と『鉄腕アトム』をテーマにしたエリアだ。『レオとライヤの夕日列車』や『アトムの月面旅行』などの可愛らしい乗り物がある。子どもづれはここで楽しめるだろう。

“昭和の街”として甦った西武園ゆうえんちに<br />刀が吹き込んだ“持続可能な仕組み”

さて、いよいよお目当ての『ゴジラ・ザ・ライド』を観に行こう。丘の上の『夕陽館』に登っていき、待合室に入ると、いきなり緊急事態が発生! めくるめく世界へ誘ってくれる。『夕日の丘商店街』ののんびりした雰囲気とは打って変わり、『ゴジラ・ザ・ライド』は恐怖の連続だ。ゴジラやキングギドラがのし歩く昭和の街を逃げ回る設定なのだが、映像が超巨大で、超リアルで、超立体的で、本物にしか思えない。本当に空を舞っているような浮遊感がある。はっきり言って、子どもなら泣き叫ぶのではないだろうか。こんなにすごいライドは初めてだ。西武園ゆうえんちだからと舐めてはいけない。TDRやUSJのアトラクションに匹敵する、間違いなく世界でも屈指のアトラクションだと思う。

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