先代までの「ドライバーが無理なことをしかけても、クルマ側が落ち着き払ったような安定感をもたらす」といった雰囲気から、「ドライバーの意思次第で安定しながらも、さらに楽しめる領域が広がった」という印象だ。

報道陣向け新型アウディ「A3」試乗会報道陣向け新型アウディ「A3」試乗会、会場の様子 Photo by K.M.

 抽象的な表現に聞こえるかもしれないが、筆者はこれまで、自動車メーカー各社のコンパクトカー、およびプレミアムコンパクトカーの開発現場で、アウディ「A3」や、「A3」との部品共通性が高いフォルクスワーゲン「ゴルフ」と各メーカー車を比較試乗してきたが、エンジニアたちと交わす“走り味”の評価は、直感的で抽象的な表現が珍しくない。数値化できない“味わい”は実際に走ることで熟成されていくのだ。

新型「A3」が搭載する1.0リッターターボ・48Vマイルドハイブリッドエンジン 新型「A3」が搭載する1.0リッターターボ・48Vマイルドハイブリッドエンジン Photo by K.M.

 そうした経験の中で自動車メーカーのエンジニアらが、“絶品の味”の「A3」と「ゴルフ」をCセグメント(グローバルでコンパクトカーと呼ばれるカテゴリーで、日本車の場合、トヨタ「カローラ」、ホンダ「シビック」、マツダ「マツダ3」が該当する)のベンチマークとして位置付け、自社の新型車開発を進めてきた。

 今回の「ゴルフ」と「A3」のフルモデルチェンジを受けて、多くのメーカーがこれら2車を車両実験部門の比較車両として新たに導入することだろう。

50代から30、40代へ若返り狙う
ターゲットユーザーの間口を広げる戦略

 試乗後、アウディジャパン関係者に日本での新型「A3」ターゲットユーザーについて詳しく聞いた。

 現状で「A3」オーナーは主に50代で、子どもが巣立ってクルマのダウンサイジングを考える夫婦が多いが、新型ではさらに若い世代を開拓するべく各種マーケティング戦略を進める。欧州では「A3」ユーザー層は日本よりかなり若く、セダンでは30代が主流だという。

 その上で、アウディジャパンが想定しているターゲットユーザーは、ハッチバックスタイルの「A3」スポーツバックとセダンでは少し違う。

 スポーツバックでは、30代以上、独身または既婚で子どもあり、会社員で夫婦共働き、個人年収が600万円以上、趣味が旅行・外食・ドライブ・スポーツ観戦、クルマは主に子どもや夫の送り迎え、習い事などの日常利用。さらに深掘りすると、輸入車に対して憧れを抱いている、または初めて輸入車を購入しようとしている。デジタルネーティブで、最新のテクノロジーへの関心が高い、知的なデザインを好む、といったユーザー特性を想定している。

 一方で、セダンになると40代以上、既婚、会社員で夫婦共働き、個人年収700万円以上、趣味は旅行・ドライブ・カフェ巡り、クルマは買い物などの日常利用や家族とドライブ。その上で、流行やトレンドに左右されにくく、全体的にバランスが取れたクルマを求める。落ち着いて過ごせる空間・時間を求める傾向がある、というユーザーをイメージしている。

 アウディジャパンとしては、スポーツバックとセダンでターゲットユーザーの間口を広げ、A3を「アウディブランド全体に対する入り口モデル(エントリーモデル)」として再定義を目指す。既存のA3ユーザーに加えて国産車からの乗り替え需要を期待している。

 輸入車のプレミアムコンパクト市場は年間2万6000~2万7000台程度でアウディのシェアはその10%強となる約3000台だ。

 アウディ「A3」の車両本体価格は、はベースモデルが310万円。2.0リッターターボ(190ps)が搭載のクワトロ(四輪駆動車)が440万円、そして2.0リッターターボ(310ps)のハイパフォーマンスモデル「S3」が642万円である。

日産の挑戦、日系メーカーで
プレミアムコンパクト市場に初参入

 一方、日本車では新たにプレミアムコンパクト市場が立ち上がった。

 日産は2021年6月15日、新型車「ノート オーラ」を発表したのだ。

日産が発表した新型「ノート オーラ」日産が発表した新型「ノート オーラ」 写真提供:日産

「ノート」は2020年12月に3代目にフルモデルチェンジした、日本車のコンパクトカー。グローバルのカテゴリーではCセグメントよりひと回りボディサイズの小さいBセグメントに属する。Bセグメントには他に、トヨタ「ヤリス」、ホンダ「フィット」、マツダ「マツダ2」が該当する。

「ノート オーラ」は、単なる「ノート」上級グレードではなく、「ノート」のコア技術であるエンジンを発電機として使うシリーズハイブリッドの第2世代e-POWERや次世代プラットフォーム(車体)を活用しつつ、「ノート」に大幅な改良を施した。

e-POWER「ノート オーラ」にはe-POWERをハイパフォーマンス化して搭載 Photo by K.M.

 具体的には、ボディをワイド化して3ナンバー車とし、インテリアでは12.3インチのフルTFTメーターやBOSEパーソナルプラスサウンドシステム、さらにツイード表皮や木目調パネルなどで架装した。

 また、高級車で用いられるドアラミネートガラスを採用するなど遮音性を欧州プレミアムコンパクト(Cセグメント)よりも高めている。

 パワートレインについても制御系のチューニングにより、最大出力が18%増となる100kW、最大トルクは7%増の300Nmに拡張し、発進加速と時速40キロからの中間加速が大きく伸びた。さらに、四輪駆動方式でもカーブでの先回性能を上げている。

 こうしたBセグメントでのプレミアムコンパクトは日系メーカーでは日産が初めての参入となる。

 価格は、エントリーグレードが261万円で、四輪駆動の最上級グレードが296万円。

 日産のマーケティング資料によると、ターゲットユーザーは、セダンからのダウンサイザー(小さなクルマに乗り替えるユーザー)で、輸入車の検討者だ。ユーザーの価値観として、人生を楽しむことで輝き、人よりもちょっと目立って周囲に認めてもらいたい、というイメージである。アウディジャパンは新型「A3」で50代中心のユーザー層を30~40代に広げようとしているのに対して、日産は「ノート オーラ」で、現行「ノート」ユーザーより豊かな層をターゲットにしているのである。

「ノート オーラ」を皮切りに、グローバルでBセグメントのプレミアム化が進むと、アウディ「A3」を含むCセグメント全体にどのような影響が及ぶのか――。自動車市場において、注目しておくべきポイントである。