ハナノキは花屋であるものの、生花の店売りは行っていない。店売りをしている一般的な花屋でフラスタを頼むと、店によっては在庫の花の組み合わせで制作されることもある。しかし、ハナノキでは先にデザインを考案し、そのデザインを再現できるように花を一から仕入れるため、コンセプト通りのフラスタが生まれるのだ。

「たとえば、『紫』がイメージカラーのキャラ宛てにフラスタを作る場合、お客様は『紫の花を使っていれば、あとはお任せで』と、細かくは指定されない人が多です。しかし『紫』といっても、キャラによって赤紫っぽかったり、ラベンダーっぽかったりします。当店は注文者の“推し”についていちから調べ、できる限りそのイメージにぴったりのフラスタを制作するように努めています」(ハナノキ店主)

 最近では、地下アイドルのライブやVTuberのイベントにフラスタを贈りたいという人も増え、市場は広がっている。ただその一方で、情熱のないフラスタを量産する花屋も少数ながら見受けられるようになってきたという。

「せっかく安くはないお金を出してフラスタを贈っても、やっつけ仕事だったら悲しいですよね。『二度とフラスタは出さない』と思う人もいるかもしれません。そうすると、フラスタ文化も廃れていってしまう。だから、そんな気持ちになる人が生まれないよう、当店では『花屋の選び方』や『オーダーの仕方』といった、情報発信にも注力したいと思っています」(ハナノキ店主)

 コロナ禍でイベントの中止が相次ぎ、開催されても感染症対策の観点からフラスタの受け取りを断るイベントも少なくない。

 注文減に追いやられたハナノキは今年2月、経営資金を調達するためにクラウドファンディングを行った。すると、目標金額を大きく上回る支援が集まったという。今やフラスタはオタク文化に欠かせない存在であり、オタクの意向をくんだフラスタを製作してくれるオタク向けの花屋もまた、不可欠の存在というわけだ。

「オタク向け」とターゲットを限定した経営は、一見、集客が難しそうな印象を受けるかもしれない。しかし実際はターゲティングすることによって、一定層の客を独占できる。さらに、共通の知識や、客と店員の情熱がつり合うからこそ、顧客と長期的かつ親密な関係が築けるようになるのだ。