声が上げられない。
そしてこれまで当たり前だったものが消えていく

 しかし、疑問は膨れ上がる。

 一体、逮捕されたトップ5人(その後、3人は保釈され、CEOと編集長が起訴された)はどのように容疑に関わったとされるのか? 「外国勢力」とは何を指すのか? さらにアップル・デイリーとネクスト・デジタルの資産凍結は何を根拠にしているのか? 特にネクスト・デジタルは上場企業であり、その資産凍結は株式市場に大きな影響を与える。このことについて株式取引所への通知は行われたのか? メディアと外国との関係は切っても切れないが、何を「結託」と呼ぶのか、その線引きは一体どこにあるのか?

 そういえば、昨年ライが逮捕された時には、一挙にネクスト・デジタルの株価が跳ね上がった。市民が声を上げる代わりに「お金で行動した」と言われた。そして、今回アップル・デイリー最終号発行日の24日は日付が変わる前から、市内の新聞スタンドに運ばれてくる同紙を手に入れようと市民が列を作った。前週の経営トップ逮捕時にも、一人で何十部も買い占めて、人目のつくところに置き、「ご自由にどうぞ」と無料配布する人がいた。最終発行号は記念にそれを手に入れた人も少なくなかったはずだ(筆者もすでに確保した)。

 声は上げられない。行動も起こせない。これまで見慣れてきた多くのものがこの1年間に消え去った。だがその理由が一体何なのか、市民にはまったく明かされないままだ。

 不安と疑心暗鬼ばかりが駆り立てられる日常において、こんなことも起きている。

 香港最大のミネラルウオーターブランドである「ワトソンズ・ウオーター」が今月初めに包装を一新した。新しいパッケージは香港出身の世界的風景写真家による香港の名所4カ所の写真を採用し、それぞれに「堅持する精神」「頭を上げれば晴れた空」「遠く離れていても根っこはここに」「山や谷を超えて夢を追う」などのキャッチコピーが付けられていた。

 だが、先週流れた報道によると、この「香港真係好靚」(香港はとても美しい)キャンペーンの文言がネット上で「隠語を含んでいる」とうわさされるようになり、一部大手スーパーの店頭から下げられたという。実際にワトソンズ・ウオーターの親会社が運営する大手ドラッグストアチェーンにも当該製品はすでに並んでおらず、市内の一部コンビニでのみ販売が確認された。

 メディアの問い合わせに、ワトソンズ側では「『堅持・突破』というキャッチをもう10年ほど使っており、それを隠語とみなすのは間違いだ」と主張する一方で、店頭から商品が姿を消したことについては触れようとしなかった。社会がさまざまに疑心暗鬼になっており、その矢面に立たされたくないという思いが高まっている一例だ。

 おっと、これを書いている時に、香港政府の政務官が解任され、前述の保安局長がその後任に任命されたというニュースが流れてきた。香港はますます、国家安全法の威力の厚いベールに包まれていくのは間違いないようである。