一癖ある強者たちを束ねる
大峯独特の操舵術とは

 番頭格であるデスクの金田哲夫主任は、特殊班の刑事として医療過誤や日比谷線脱線事故の捜査を担当していた。その緻密な捜査ぶりを買われて「特殊班じゃもったいない。殺しで使いたい」と、大峯にスカウトされた男だった。年齢は大峯より三つ上、その巨軀同様に懐が深く、捜査員にとっては心強いアニキ的な存在だった。

“部屋長”は菅原良治部長刑事だ。すでに紹介したように、部屋長は捜査一課独特の非公式の肩書きで、刑事のリーダー的役割を担う。班で一番のキャリアを持つ刑事が捜査一課長によって指名された。菅原は主に凶悪犯罪を扱う強行犯係としてキャリアを積んできた。取調べが上手く捜査も堅実。敏腕だが性格的にはおっとりとしており、クセの強い人間揃いの刑事の中に菅原がいると場が一気に和んだ。

 捜査員も個性派ばかりだ。影山裕高主任は四課担当刑事、通称マル暴で鳴らした猛者だった。暴力団への情報ルートは広く、かつ密だった。難事件のときこそ彼の裏情報ルートが物をいうと考えて、大峯が呼び寄せた刑事だった。

 佐野輝部長刑事もまた四課刑事として鳴らした男だ。彼も大峯のスカウトにより警視庁捜査一課に引き上げられている。小柄でガッシリした体格の佐野は、その見た目通り無骨で押しの強い捜査手法で知られていた。

 みな一癖ある強者たちを、大峯は独特の操舵術で束ねていた。組織捜査を是とする警察のアイデンティティを無視するかのように自由放任なのだ。大峯は捜査において細かい指示は出さず基本的には部下に一任してしまう。

 殺人班捜査二係に配属された当初、佐野は大峯のことを、「いい加減なオヤジだな」と思っていたという。佐野が語る。