「店員に敬語を使わない」人の哲学

  店で傍から見ていて不快に思える態度の悪さを示している人は、中年男性に限らない。男女限らず、また若くてもさらに年長でも、態度の悪い人はいるものである。

 だが「店員に対して態度が悪い」と聞いた時、なぜか筆者は中年男性のイメージが最初に浮かぶ。これはやはり中年男性にそういう人の割合が多いということかもしれないし、実は全然そんなことなく、嫌われやすい“中年男性”というイメージによる単なる「風評被害」なのかもしれない。

“態度が悪い”の捉え方は人それぞれだが、最近では「店員に敬語を使わない」人も結構な割合で同席者に嫌がられているようである。敬語を使わないことによって親しみを演出するアプローチもあるが、この場合は親しもうとする雰囲気があるので「態度が悪い」との違いは判然としている。

 しかし、それを踏まえた上でも「同席者には敬語を使ってほしい」と考える人は少なくない。これに関して憤る20歳の男性は、こう語る。

「店員さんに対して、若い人がタメ口で話すのはいかにもチャラくて礼節を欠いているように感じる。中年の人のタメ口は偉そうで、底が浅い。客と店員でもお互い文明人なのだから、最低限のリスペクトを持って接してほしい」
 
 しかし、「店員に対して敬語を使わない」については次のような見方もあった。ある70代の老紳士は、「店員には敬語を使わないことこそがリスペクトの表れ」と考えているようである。

 「飲食店やホテルにおいて、特に一流の接客が求められるグレードの施設では、従業員も接客に高い意識で取り組んでいる。彼らにとっては客に心地よく過ごしてもらえるよう奉仕することが至上命令であるから、こちらは奉仕される者としてへりくだらず、相手の奉仕をあるがままに受け入れて心地よくなることこそが、客としての務めであり、また彼らへのリスペクトの表れでもある」(70代男性)

 この哲学は筋が通っていて、骨太に感じられる。

 しかし実際、ここまで考えた上で敬語を排している人がはたしてどれだけいるだろうか。また、その人なりの哲学が背景にあったとしても、「店員に敬語を使わない」は若い人から嫌がられるおそれがあるという点には留意しておきたい。

 おしぼりで顔を拭くおじさんが散々取り沙汰されてきたが、“嫌なおじさん像”は時代とともに変わっていくようだ。周りの目ばかりを気にして縮こまりたくはないが、人に不快感を与えない程度には周囲にアンテナを張って、心安らかに生きてみたいものである。