“ヒモ亭主”の不倫から始まった犯行

 裕子は遺体を麻雀店の二階に運び、包丁、ノコギリ、まな板を使って、頭と胴体、両手首両足首を切断し解体した。頭と胴体部分はレジャーシートや布団カバーで梱包し、キャリーバッグに詰めて長女宅に隠した。手首足首は新聞紙で幾重にも包み、裕子が以前勤務していた堀ノ内のソープランド街近くのゴミ捨て場に遺棄したという。ソープランド街のゴミは感染症など衛生面の不安もあり、中身を検められることが極めて少ないことを熟知した上での行動だった。

 ところが長女宅に隠したキャリーバッグが腐臭を放つようになり、裕子は改めて吉田に運搬を依頼することにした。

 吉田は運搬と穴を掘るところまでは手伝ったものの、「犬の死体」だと信じ込んでいたという。遺体を埋める作業は裕子だけが行っており、吉田は車の中で待っていた。取調べの結果、吉田は殺人や遺体遺棄には関与していないと判断された。

「松岡が夫と不倫をしたのが許せなかった」

 裕子はこう供述した。

 衝動的な犯行後、彼女は里美さんの遺体をバラバラに解体しただけではなく、彼女の自宅に忍び込み預金通帳などを持ち出した。命を奪い金銭まで取ろうとしたのは、裕子が夫のために費やした時間への執着と、夫を奪おうとした女への復讐心だった。

「麻雀店を任せた里美の不実と裏切りに対する対価を得ようとした」

 裕子はそう供述した。犯行は“ヒモ亭主”の不倫から始まった。自分にも情夫がいるのに、それでも夫の不貞を裕子は許すことができなかった。大峯は“情念”という魔物の恐ろしさを、まざまざと見せつけられた思いだった――。