なぜ“暴走老人”が生まれるのか

 カエル騒音で裁判になったというニュースでもう一つ気になったのは、双方が60代男性だということです。私も同世代の人間として、どうしても年齢的な背景をスルーできませんでした。

 年々、残された時間が少なくなっていくシルバー世代は焦りが募り、不満や不安が大きな風船のようにはち切れんばかりに膨らみがちなのでしょう。先日、ラジオを聞いていて、リスナーの投稿を紹介するMCの言葉に耳を奪われました。

 その内容は「年々、移ろう時間が早くなる」というものでした。興味を持って耳を傾けると、ご自身の経験から「10代は時速10キロくらいで思い出いっぱいだったのに、社会に出た20代は倍になり、40代になると時速40キロと年々速度を速めていった。今、70代になったが、移ろう時間の早さはあっという間で、法定速度を上回る70キロ以上になったと感じている」と言うのです。

「なるほど!」と思わず手を打ちました。私も、年々時間が早く過ぎると感じていたのですが、それは年相応であり、齢を重ねると生き急ぐ傾向にあるのは自然なことなのです。毎日のように、もみじマークを付けた高齢ドライバーの生き急ぐ(先を急ぐ)運転にドキリとするのも、そういう人が多いということかと合点がいきました。

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 コロナ禍で、不自由な暮らしを強いられる。旅行も飲み会もできず、孫にも会えない。オリンピックにより変異株が拡大すれば、さらなる緊急事態に陥る可能性もあり、我慢の限界である。残された時間が少ないのにコロナ禍で2年も無駄にしてしまった。今、こうした鬱憤(うっぷん)をためてイライラしながら生活していると、時の移ろう速度がさらに上がり「暴走老人」状態になりかねません。

 自戒を込めて、あらがっても「どうしようもないこともある」と、生き急がずに自分の足元を見つめ直せば、世の中の見方も変わります。「仕方ない」と諦めることも肝心であり、コロナ禍の時代は頑張りすぎない生き方を模索する“分水嶺”なのかもしれないと思っています。

(エンゴシステム代表取締役 援川 聡)