中国人の生活を変えたイノベーション
「えっ、まだ現金使っているのか」という反応

 こうした変化が可能になったのは、中国人の生活のデジタル化が進んだことが大きい。中国の事情に通じている読者ならご存じだと思うが、中国は政策レベルで、「革新(イノベーション)」を重要な発展概念に位置付けており、国が旗振り役になって推進している。

 また、中国政府は「インターネット+」の概念を打ち出し、インターネットと生産や行政手続きを結びつけるようになった。企業レベルでのイノベーションは優秀な人材に活躍の舞台を与えた。

 また、中国政府は市場経済改革を推し進める環境づくりのために、行政手続きの簡素化も行っている。今までは、役所に行って番号札を取ってから、自分の順番を待っていたが、今はインターネット予約ができ、待つ必要がほとんどなくなった。

 政策レベルでのイノベーションが進むにつれ、生活の分野でのイノベーションも進み、スマホなしでは生活できなくなった。キャッシュレス決済がその典型例だ。筆者の中国人の友人で現金を持っている人はほとんどいない。筆者は中国スタンダードになじめていないせいか、まだ現金を使っている。例えば、買い物するときに現金を出すと、「えっ、まだ現金使っているのか、この人」という顔をされる。

 また、コロナの例でいえば、ワクチン接種は、WeChatでアプリをダウンロードしてから予約する。指定の病院に着いてから待っているのは、「健康宝」といわれる健康アプリでスキャンして、自分が健康であることを証明することだ。

 ワクチン接種の受付に着いたら、今度は係員に「このQRコードをスキャンしてください」と言われる。指定のQRコードをスキャンすると、「今朝、熱はなかったか」「高リスク地帯に行ったことがあるか」「家族に感染者がいないか」といった類いの質問項目が出てきて、全て問題ないと答えると、「正常」という文字が画面に出てくる。それを担当看護師に渡すと、接種手続きが始まる。

 もしスマホを持っていなかったらどうなるだろうか。まず、接種の予約ができないし、できたとしても、電話がつながるまでかなりの時間を費やすと思う。また、病院に入る際も健康コードを提示しなければならないので、スマホがないと一苦労だ。筆者のようなアナログ人間にはまったく生活しにくい世の中となった。