なぜならワイゼルバーグ(73歳)は、長年トランプ一族の忠実な金庫番として誰よりも裏の金の流れを知る重要人物で、検察の切り札だからだ。

「すべての死体(犯罪の証拠)がどこに埋められているかはワイゼルバーグが知っています」と、前大統領のめいでトランプ一家の暗部を自著で暴露したメアリー・トランプが語っていた。トランプ自身も2004年に彼のことを「すべてをやり遂げる方法を知っている男だ」と称賛している。

 マンハッタンの法廷に出頭したワイゼルバーグは高齢のせいか疲れて見えたが、捜査官が手錠を外すのに手間取っている間にみるみる顔は紅潮し、鋭い視線で法廷内を見回していた。耐え難い恥辱であるとともに事の重大さを感じた瞬間だったのだろう。

 同日の罪状認否では大方の予想どおり無罪を主張した。しかし重罪を恐れて今後司法取引に応じて洗いざらい証言すれば、検察にとって本丸であるトランプ前大統領まで捜査の手が伸びる可能性がある。捜査当局にとって、大統領免責特権を失ったトランプは今では「ただの一市民」にすぎないからだ。

来年の中間選挙を見据えて
トランプは大規模集会を再開

 マンハッタン地区主席検事サイラス・ヴァンス率いるニューヨーク州検察が集中的に捜査してきたのは脱税と不正税申告だ。ワイゼルバーグとトランプ・オーガニゼーションは税金詐欺、業務記録改ざんなど15もの罪で起訴された。それに加え、ワイゼルバーグは重窃盗の罪にも問われている。この訴因で有罪となれば最長15年の刑だ。73歳の身には厳しいだろう。

 24ページにわたる起訴状にトランプの名前はもちろんない。だが起訴されたファミリー企業は強欲なトランプにとって分身のような存在だ。そのため大統領になっても実質的な経営権を決して手放さなかった。完全な公私混同、利益相反である。今回、検察はその分身に致命的な一撃を加えて突破口を開こうとしているのだ。